One to Oneマーケティングの時代に活躍するマーケッターとは 電通の若手プランナーが考える活躍のカギ

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デジタルトランスフォーメーションが加速度的に進む中、人々の意識や行動の可視化も進み、従来のマーケティング活動に加え、One to Oneでのマーケティングが必要となってきています。こうした背景から、電通では“人”基点の統合マーケティング・フレームワーク「People Driven Marketing(PDM)」を開発。クライアントの抱える課題を“人” 基点でとらえ直し、必要な人に、必要な場所で、必要なタイミングで情報を提供することをゴールに、マーケティング戦略の立案・実行をしています。

今回は電通のデータマーケティングセンターのプランナーとして、PDMにのっとりマーケティング戦略の立案・施策実行・検証・継続的改善を一手に担う、データマーケティングセンターPDM推進7部プランナー・瀬口 太郎(せぐち・たろう)さんにお話を伺いました。2018年に新卒で入社され、最前線でクライアントの課題に向き合うなかで感じた、これからのマーケッターに必要となる力やスキルについて解説してもらいました。

【~PDM(People Driven Marketing)とは~】

従来型のマスマーケティングとOne to Oneマーケティングを融合した新しいマーケティングサービス。電通グループが提唱する「人」を基点とした最先端のマーケティング手法を統合したフレームワークのこと。本当に必要な人に、必要なタイミングや場所で、その人に合ったコンテンツを配信し、その人の反応を受けて更に最適化するというコミュニケーションを実現することを目的としています。

PDMは、以下の7つのステップを踏んで実行していきます。
①Objective(目標と課題設定)
②Deep Drive(人の深いインサイトで課題の本質を発見)
③Person(狙うべき複数のターゲット顧客と市場推計
④Journey(コンバージョンに至る体験デザイン)
⑤Media&Promotion Design(次の体験ステージへ促すコンタクトポイント設計)
⑥Creative&Activation(人を動かす仕掛けの開発)
⑦Execution&PDCA(効果測定と次の課題の発見)

電通グループの場合、独自のPeople Driven DMP(Data Management Platform)を持ち、PCやスマートフォンからのデータ、テレビの視聴データ、Web広告の接触データ、ラジオの聴取データ、購買データなど、多種多様なデータをもっており、これを基に戦略を設計します。

「人基点での課題解決」。幅広いソリューションを提供できる電通なら自分のやりたいことを実現できる

―まずはこれまでのご経歴について教えてください。どのような経緯で電通に入社されたのでしょうか

学生時代からずっと理系畑を歩んできており、学部生の4年間は情報工学を専攻し、アルゴリズムやソフトウェア、ハードウェアなどについて学んでいました。学部生のころ、昨今のAIブームの火付け役である、ディープラーニングが登場し始めたんです。こうした技術に私も色々な可能性を感じ、AI技術に関連する研究室に入り、大学院でも継続して研究を続けていました。専ら技術畑を歩んできたというわけです。

就職活動の時に大事にしていた軸は3つありました。1つ目に「人基点での課題解決をしたい」ということ、2つ目に「自分の身近な人にインパクトを与えたい」ということ、そして3つ目に「ロジカルだけではなく感性で人を魅了したい」というものでした。

その中でも1つ目の軸を一番大切にしていました。技術を中心に学んできた自分だからこそ、技術を基点にするのではなく、人が持つ課題を基点にしたいと考えていたんです。人々にどんなニーズや課題があるのか、それを捉えた上で、手段フリーというか、特定の手段に囚われず、課題に応える自由かつ最適なやり方で課題解決をしていきたいと思っていました。その点で、電通は自由な発想で課題を解決できる企業だったので魅力を感じたんです。

大学ではハードウェアやCG、拡張現実など、様々な技術を様々な形式で学んできました。その中でも、最も面白く感じ、成果を出せていたのは、学んだことをアウトプットするという授業でした。学んだ技術を活用して実際にアプリケーションを制作してみるというものです。技術について学んできた学生の中には、Web系言語やデータベースについて学んできたが故に、例えばそこからWebサイトをつくるという課題があったとき、とにかく学んだ技術を詰め込みがちになってしまうことがあります。まさに技術の視点だけの発想です。ただ、私が大事にしていたのは、アプリケーションは必ず使う人がいるのでその人を想像し、実際に使うユーザーの視点でニーズを捉え、必要な要素を洗い出し、必要な技術だけを使うように、逆算して考えることです。結果として、他の学生のつくったWebサイトとの差別化ができ、より良いものをつくることが出来たように思います。これが技術基点ではなく、人の課題基点ということです。技術を基点に世の中に貢献することも非常に重要ですが、私は人基点で課題を考え、その中で学んだ技術を活かし世の中に貢献したいと思いました。

―そのようなお考えを大事にされていたのですね。一方で、それだけ技術の世界にいた瀬口さんが、メーカーやIT企業ではない電通とどのようにして接点を持ったのでしょうか

就職活動でOB訪問をしている中で、偶然、電通で働いていた先輩と出会う機会があり、そこからクライアントと、その先にいるユーザーの視点をもって事業をしている会社であることを知り、興味を持つようになっていったのです。

先ほど、特定の手段に囚われずに課題解決できる会社であるとお話しましたが、電通の場合には課題解決のために、テレビCMもあれば、デジタル広告もあれば、オフラインのイベントをすることもできます。クライアントの課題を基点に、一番いいものを提供できる会社だと思い、その点が自分のやりたいことと一致したんです。

もちろん、メーカーなどの選考も受けましたが、最も課題基点であり、 特定の手段に囚われず、課題に応える自由かつ最適なやり方で課題解決であると感じたのは電通でしたし、実際に仕事をしている中で、上司からも常々、「課題基点で考えろ」とも言われています。それに、世の中の人にインパクトを与えたい、感性で人を魅了したいといった他の軸にも適う会社だと感じましたね。

―「人基点での課題解決」にこだわりを持たれていますが、そのように考えるようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか

改めて「なぜ?」と聞かれると難しいですね(笑)。ただ、「技術」や「理論」そのものが好きだというよりも、自分でやったことが誰かに届き、喜んでもらうことが好きな性分で、それが原点にあるのだと思います。

本質的な課題を見抜き、ブレることなく一気通貫したソリューションを提供する仕事

―そうして入社された電通では、現在どのようなお仕事を担当されているのでしょうか

現在所属しているデータマーケティングセンターは入社して最初に配属された部署で、クライアントの課題解決のためにマーケティングやプランニングを担当する組織となります。他の部署も同様の業務を担当していますが、データを活用するという点が異なる点ですね。また、データ分析をして、そこからわかった結果をクライアントに提供して終わりではなく、中長期的な視点をもってクライアントの事業成長のために課題解決に取り組むことをミッションとしています。現状を分析し、課題に対する仮説を立て、それを基に打ち手を実行し、その結果を検証し、そしてまた次の施策を立案する…と、ミッションの達成のために動き続けます。まさに全ての工程を担当するのですが、ここが面白さでもあり、難しさでもありますね。

この仕事には主に3つのスキルが必要となると考えています。1つ目にクライアントに寄り添う能力です。クライアントから本質的な課題を引き出し、整理して解決策を提示するという力です。私も毎週のようにクライアントに会い、議論しています。2つ目にデータ分析力。課題解決のために適切にデータを分析し示唆を出す力です。私が学生時代学んできた機械学習や統計のスキルがこれにあたります。そして3つ目に交渉力や調整力です。クライアントが抱える課題は毎回異なります。電通が持っているデータだけでは解決に必要なデータが不足していることもあります。そこで、アプリ提供会社や大手プラットフォーマーと協業し、ともにデータ分析をしていくということもしていますね。

―具体的にはどういった流れで仕事が進んでいくのでしょう

一例ではありますが、基本的には営業から相談を受けて案件が進んでいきます。過去にあったある日用消費財系の案件では、打ち手として色々なプロモーションを実施してきたが、どれが売上拡大のために効果的か分からず知見がたまっていないといった相談でした。

初期の相談はふわっとした内容であることが多いので、クライアントの課題を整理し、深掘りしていきます。このケースでは、調査に基づいて細かく戦略ターゲットを設計しているものの、施策実施の際には、設定した細かいターゲットごとにアプローチする手段がなく、描いた戦略のようなコミュニケーションが展開できていませんでした。つまり、戦略と施策が分断されていたのです。

また、施策の評価の際、例えばデジタル広告であれば、「ある配信ターゲットは他の対象よりもクリック率が0.3%高かった」とか、「この動画広告は視聴完了率が0.5%高かった」とか、そういった話になってしまいがちです。売上拡大をしたいというのが大目的であるときに、クリック率や視聴完了などの広告指標と事業KPIの繋がりが見えておらず、施策評価と事業貢献評価の分断が起きていました。

漠然とした悩みの奥に、戦略と実施の分断と施策評価の問題点が見えたため、解決策として私たちは大規模な購買ログデータをマーケティング基盤として導入することを提案しました。購買データからターゲットを定義し、IDベースで戦略ターゲットに直接デジタル広告などのコミュニケーションを展開しました。また、施策の成果を図る指標も、購買データに設定。施策がどれだけ事業成果(売上)につながったかを検証するようにしました。このように大規模な購買データをもとに戦略立案・施策実施・効果検証まで一気通貫で取り組める枠組みを導入することで、購買のボトルネックになっている課題を解決でき、継続的な改善サイクルを回すことで知見をストックできるマーケティングを実現しました。ここまでいくのに、おおよそ1年くらいの時間を要しましたが、これも全ての工程を担うデータマーケティングセンターだからこそ実現できることだと思っています。

―担当するクライアントによって、業界も異なりますし、それぞれが抱える課題も様々かと思います。幅広い知識や情報収集能力が求められそうですね

そうですね。担当するクライアントの業界や、そのトレンドなどは基礎知識となりますので、最初にきちんと習得しなければなりません。ビジネスプロデューサー(営業社員)へのヒアリングなども通じて必要な情報は得るようにしていますが、基本的には自ら学んでいかなければなりません。ただ、業種理解なども大事な一方、一番大切なことは先入観にとらわれすぎず、本質的な課題を見抜くことにあります。

―本質的な課題に迫るために、例えばクライアントとのコミュニケーションなどで工夫されているポイントなどはあるのでしょうか

データ活用のプランニングなどを手掛けることもあり、データにまつわる相談はよくあります。会社でDX化を推進していかなければならないとか、ビッグデータを活用したいとか、そういった話が多いのですが、どうしても「手段」の話が先行しがちです。そうではなく、その手段を用いて何を実現したいのかをヒアリングし、大目的から実現したいことをブレイクダウンするようにしています。その実現したいことに、高度にデータを活用する必要があるのかどうかということも含めてです。

―クライアントの課題解決に向けてデータ解析だけではなく、全ての工程を担当することに面白さと難しさがあるとのことですが、この仕事の魅力はどこにあるのでしょうか

データを扱う部署というと、高度な機械学習の知識とか、アナリティクスのスキルだけがあれば良いと思われがちですが、それだけではないところですね。クライアントの課題解決のために、戦略を立てるフェーズから関与することができ、最終的な打ち手まで、時にはクリエイティブチームと協力して手掛けることが出来るのは魅力だと思います。

また、個人的には学生時代に学んだデータ関連の技術を活かすことができており、当時よりも何のためにそのデータや技術が必要になるのかをより深く理解できることも増えてきました。ここも面白いと感じるポイントの一つです。

他にも、内勤の仕事でありながら、データプラットフォーマーなど他社と直接交渉をすることもでき、データ活用の視点でどうすればwin-winな関係を築けるのか試行錯誤しています。簡単な業務ではありませんが、その分、学びも非常に多いですね。貴重なデータを保持していること自体が武器になる時代に、データを集める段階から携われていることも統合的に課題解決できる人材になる上で自己成長に大きく繋がっている実感があります。

―電通ではPDM(People Driven Marketing)という人基点でのフレームワークを用いていますね

PDM自体は入社したころからあったもので、フレームワークができてから数年ほど経っていますが、日々進化を続けており、「PDMはこういうものだ」という明確な定義はまだ出来ていないと考えています。とはいえ、人基点でのマーケティングという考え方は素敵だなと思っています。

大規模な顧客データを活用しながら、TV視聴情報・Web上の行動・商品購買などの世の中の人々の行動をID単位で捉えて、マーケティングに活用していきます。

先ほどのお話にもありましたが、色々なプロモーションやキャンペーンをやって盛り上がるけれども、事業にどのくらい貢献したのか分からないという相談を受けることがよくあります。

PDMであれば、顧客行動起点のマーケティングマネジメント基盤を構築することができ、戦略立案から効果検証まで一気通貫のPDCAを実現し、クライアントとしてもナレッジを蓄積することが出来るようになっていきます。

―お話を聞いていると、瀬口さんのお仕事は企業によっては生命線となるような内容ですね

単発の施策だけを実施するのではなく、全体を考えて、短期的ではなく中長期的な戦略を描き実施・検証までやっていきますので、生命線とまでは言わずとも、クライアントにとって重要なパートナーにならなくてはいけないと思っております。

常に問いかけ、仮説と検証を続け、求められる統合的なマーケッターへ

―PDMによって人を基点としたマーケティング活動が進化し、より精緻で、一人ひとりに合ったコミュニケーションが必要になっていると思います。このような仕事に携わるにはどのような力が必要になるのでしょう

データマーケティングは武器というか、手法が多いことが特徴です。一方で、それ故に手法ドリブンになってしまうというか、手法ありきで戦略設計をしてしまうことも多々あります。繰り返しになってしまいますが、やはり目的が何かを常に意識し続けることが肝要です。

目的が何かを意識するということは、クライアントの抱える課題をブレイクダウンしていき解剖してくことですが、その時に必要な力は「問いかけ力」だと思っています。

いま実施しているデジタル広告は売上につながっているだろうか?デジタル広告接触者の方がCV数が少ないならそれはなぜなのか?想定と異なっていた場合にはターゲティングの仕方が良くなかったのではないか?日常的に口コミ情報を調べている人がいるかもしれないからWeb行動ログデータを見てみようか?

といったように、仮説への問いかけを行って、検証し、そこから出た結果を元にまた問いかけを行うという思考プロセスを繰り返すことが必要で、意識的に取り組んでいます。

―データマーケティングを実践される瀬口さんから見て、これからのマーケティングのあり様はどのようになっていくと考えていますか。また、どのようなことを実現したいと考えていますか

一つは現在私たちが取り組んでいるように、大規模な顧客データを活用し、顧客の行動基点でクライアントの事業をマネジメントしていくことが、これからのマーケティングに必要なアプローチだと思っております。

消費者の行動はデジタル化に伴い、昔よりも、非常に複雑で多様化しています。その多様化した顧客行動をしっかり捉えてマーケティングに活かしたいというクライアントニーズも増えています。だからこそデータを活用して顧客一人一人の行動を基点にマーケティングをマネジメントできることは重要になると考えます。

一方で、従来のマーケティング手法もこれまで通り必要ですし、人の気持ちを動かす、感情を揺さぶるのはクリエイティブです。私自身は大規模データを基点としたマーケティングについては詳しくなっているかもしれませんが、従来型のマーケティング手法や、クリエイティブチームのアウトプットの手法についてはもっと学ばないといけないと思っています。

電通の強みは一気通貫で統合的にソリューションを提供できることにあると思います。入社する前から考えていたことですが、戦略に関わるロジカルな部分に加え、クリエイティブの領域でも将来的にスキルを磨いていきたいと思っています。個人的な目標ですが、この会社で、データを活用した戦略構築力とクリエイティビティを統合的に身に付け、クライアントの課題を最適な手法で解決できるようになりたいと思っています。

―読者の中には学生や、マーケティングの仕事に興味を持つ20代の方もいるかと思います。そうした方に、同じく20代の瀬口さんの視点から、今の内に取り組んでおいた方が良いと思うことなどがあれば、アドバイスをお願いします

マーケティングやデータ分析の勉強をするというインプットも大事だとは思いますが、今取り組んでいる仕事や研究に対して、できるだけ目的・課題基点で考えるようにすることが大事だと思います。そのうえで本質的な課題を明らかにするために「問いかける力」を意識して、仮説を立て、検証することを繰り返し、考え抜いてみる―。まずはそのことに挑戦してみてほしいですね。主体的に、能動的に考え抜いているかということを常に意識してほしいです。

―どこまでいったら考え抜いた、やり切ったと言えるものなのでしょうか

自分一人だと分からないものです。優秀な上司や、学生であれば研究などを一緒にやるメンバーや教授に対し、自分で考えたものをぶつけてみてください。最初から100%考え抜けずとも、30%でも良いと思いますが、ぶつけた結果、フィードバックをもらうことができ、そこで新しい視点を得て、そこからまた考えるということが出来ます。具体的に「ここまでやったからやり切った」という目安を出すことは難しいですが、そうした周囲の人と意見を交わし、吟味しきっていくことの先に考え抜いた状態が見えてくると思います。

【株式会社電通】
1901年(明治34年)7月1日創業。顧客のマーケティング全体に対するさまざまなソリューション提供に加え、デジタル時代の変革に対応する効率的な広告開発、最適な顧客体験のデザイン、マーケティング基盤そのものの変革や、さらには顧客事業の変革をも推進。また、マーケティング領域を超えて進化させた多様なケイパビリティを掛け合わせ、顧客と社会の持続的成長に貢献する統合ソリューションを提供している。

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