遺言書作成は亡くなる人の10人に1人 日本初「えほん遺言」で財産トラブル回避へ、企画した人に聞いた

山本 智行 山本 智行

 もしものことがあったとき、残された家族が財産を巡ってトラブルを起こすような事態は避けたいもの。そのためには遺言書が必要になってくるが、日本人の約9割が遺言書を残さずに亡くなっているという。そんな状況を改善しようと昨年10月から始まった国内初の試みが、えほん遺言「えころ」だ。提唱するのは「えほん遺言司法書士事務所」(大阪市、水上和巳代表)。一体、どんなサービスなのか。

 相続トラブルを少しでも減らすためには、遺言という形で財産目録などを明記しておく必要がある。しかし、日本は欧米に比べて、遺言書の作成率が極めて低い。国民性などもあるのだろうが、75歳以上のイギリス人の82%が遺言書を作成しているのに対し、日本人は全体のわずか10%程度。つまり、亡くなる人の10人に1人しか遺言書を書き残していない。

 そもそも遺言は「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」があり、自筆の遺言書を法務局が1通3900円の手数料で保管する制度も始まっている。しかし、普及率は低く、えほん遺言司法書士事務所代表の水上和巳さんによると「一般的なデータとして日本では年間130万人がお亡くなりますが、公正証書遺言の作成件数は年間約11万件、自筆証書遺言は約2万件にとどまっています」とのことだった。

 遺言書を残さない一番の理由は「資産がないから」だそうだが、相続争いは何も資産家だけのものではない。水上さんによるとトラブルになったケースの実に75%が財産5000万円以下。1000万円以下で30%を占める、という。

 「自分が死んだ後は、どうでもいいという気持ちがあるのでしょう。しかし、書かないことでトラブルは後を絶ちません」

 その一方で、日本人の60%は遺言書がないことが相続トラブルの原因と考え、子世代の65%が「相続財産について不安」と回答。これに対して親世代で「相続財産について不安」と回答したのは35%にとどまるとのデータがあり、このあたりの溝は埋まらないままだ。

 「実際に70~80代の方から遺言の相談はよく受けます。しかし、ほとんどの方が話を聞いて、終わりなんですよ」

 こんな現状をなんとか変えようと誕生したのが、えほん遺言「えころ」だ。昨年12月に大阪市中央区に司法書士事務所をオープン。堅くて、重くて、どこかよそよそしいイメージのある遺言を絵本の力を借りることで柔らかく、親しみやすくしようとする日本初のリーガルサービスを始めた。これは依頼者の半生を聞き取り、自分史や家族への思いを一冊の絵本にし、合わせて正式な遺言書も作成するものだ。

 このアイデアを思いついたのは水上さんの姉で「えほん遺言」代表の水上瞳さん。広告業界に身を置く瞳さんは、これまでに何度もアイデア一つで社会問題を解決するサービスや企画を経験しており、一昨年の夏から構想を練り、実現にこぎ着けた。

 さらに水上姉弟は昨年12月末から今年1月末まで「自分史絵本を作れるサービスで、遺言書をもっと身近にしたい」との思いを込め、クラウドファンディングで資金調達を実施。目標の50万円を3日以内に達成している。

 遺言書を絵本の形にする魅力は様々だ。例えば、子どもが産まれたときなど人生の節目で浮かんだ場面をストーリーとして残すことで、受け取る側にとっても心温まる内容になる。絵本作家は16人以上が登録されており、好きな作風で作家をチョイス。世界にひとつしかない、あなただけの絵本が完成する。

 もちろん、本職の司法書士が法的に有効な遺言書を作成してくれるのは当然のこと。水上さんは「絵本は3冊つくり、そのうちの1冊には遺言書が収められる専用のポケットが付いていますので、大切に保管ください。残りの2冊はご家族へのプレゼントにしてもいいのでは」と話す。

 ここに来て、注目度もアップ。問い合わせも増え、大阪をはじめ、神奈川、埼玉、千葉からも声が掛かっているという。

 「えほん遺言を作成予定のある女性社長は、仕事のキャリアのことはこれまで何度も取材をされているとのことで、子どもとふれ合った際のエピソートエピソードや子育ての体験を絵本にしてほしい、と熱心に語ってくれました。高齢になると、記憶力が衰え、時系列があやしくなることもありますので、早めの作成が望まれます。まだまだ遺言の普及率は低いですが、このえほん遺言がひとつのきっかけになり、遺言書を作成する文化が広がっていくことを願っています」

 このサービスの気になる値段はページ数に応じて33万円から70万円とのこと。水上さんは「自分史だけを取ってみても、新聞社等が実施しているものより、お手ごろですし、遺言作成で考えても信託銀行などと比べると、かなりお安いと思います」と話している。

 これを機会に一度、人生を立ち止まり、遺言書のことを考えてみるのもいいかもしれない。

◇合同会社えほん遺言/えほん遺言司法書士事務所
大阪府大阪市中央区森ノ宮中央1丁目9-2
電話:06-6944-3501
URL: https://ehonyuigon.jp/

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