地味な滋賀の県都を「お願い!バズらせて…」JRが“攻めた”ポスター で、バズった?

堤 冬樹 堤 冬樹

「大津はまだバズってない。だから、お願い!バズらせて…」

 そんなキャッチコピーとともに、懸命にお願いする男性の姿をあしらったポスターが、JR大津駅(滋賀県大津市)などに掲示されている、という。お堅いイメージのJRらしからぬ“攻めた”内容だが、確かに大津は地味な印象がぬぐえない。制作者は誰? 狙いは? そして実際にバズったのだろうか? 気になって大津駅を訪ねた。

「紆余曲折」のポスター作り

 JR大津駅北口に、ポスターは確かにあった。駅員によると、大津駅は今年で開業100周年を迎え、記念のデジタルスタンプラリー(11月5日~12月14日)などの催しを開催中。ポスターはイベントや地域の魅力を知ってもらう目的で、今夏から駅員たち自身が制作に取り組んだという。ただ、担当者は「ものすごく紆余(うよ)曲折だった」と苦笑する。

 最初の案は、駅舎をバックに「大津駅100周年記念デジタルスタンプラリー開催」と大書されたデザインなど。阪下泰駅長らから「これだと従来のJRと同じ。面白くも何ともない」と一蹴された。うん、確かに面白くはない。

 担当の一人、貞弘翔吾さん(32)は「ボツになって一皮むけた。固定概念にとらわれず、めちゃめちゃ考えた」と振り返る。イベントにはあえて触れず、インパクトを重視し「何これ?」と多くの人にSNSで拡散してもらう作戦に切り替えた。

「大津駅周辺は寂しい感じ」

 そもそも、大津市は京都市に隣接し、JR大津―京都駅間はわずか約10分、片道200円で行けてしまう近さだ。大津市在住のある女性(28)は「県庁所在地だけど、特に大津駅周辺は活気がなくて寂しい感じ。買い物や友達と遊ぶ時は京都か、イオンがある草津に行く」と話す。JR西日本によると、滋賀県内のJR線の乗降客数でも、大津駅は4位(2020年度)にとどまる。

 駅員の貞弘さんも「京都への観光客が宿泊のためだけに立ち寄ることが多い」と指摘する。そんな大津や滋賀にもっと輝いてほしい、との思いを込めて考案したのが、冒頭の「バズらせて…」のコピーだった。今度は上層部のゴーサインが出た。

 お願いポーズのモデルは駅員の赤井雄一さん(37)が務めた。ちなみに自撮りだ。ポスターの色味はとにかく目立つようピンクに決め、パワーポイントで仕上げた。締め切りに何とか間に合わせ、ポスターは10月中旬から大津市内の7駅に掲出。駅ホームの電光掲示板でも「お願い!大津をバズらせて!!」とメッセージを流すほどの力の入れようだ。

 実はポスターはこれだけにとどまらず、10種類以上を手作りした。10月の掲示分は「拝啓、そろそろお前も大津駅を選ぶように 母より」など「何これ?」系が多く、スタンプラリーが近づくと日替わりのカウントダウンポスターに。さらに催しが始まってからは、市内で撮影した写真にイベントのQRコードを入れ、街歩きにいざなう内容へと変化を付けた。京阪電鉄の路線風景の写真に「この街は、JR、 だけじゃ物足りない」などと、やっぱりJRらしからぬテイストが目立ち、3~4日ごとに差し替えているという。

いろんなツイートや反応が…

 それで、実際にバズったのですか? 単刀直入に尋ねると、貞弘さんは「バズっては、ないですね…」とうなだれた。朝昼晩とSNSで検索に励むが、確認できた関連ツイートの「いいね」の最多は数百件、リツイートも数十件にとどまるという(11月16日午後3時現在)。

 ただ、私もツイートを調べてみると、多くの人がいろんな関連ツイートをしていて興味深い。

 例えば、ポスターの写真を添え「変なポスターが大津駅にあるのだけど。具体的な内容がないので、バズらせてとか来てとか言っても効果ないのでは??」と疑問視する人がいる一方、協力や応援する人も。「実は滋賀県の県庁所在地・大津市ってすごく細長くて広いんですよ!見所がいっぱい!(こんなんでバズるんか?)」「大津駅、琵琶湖まで歩いて行けるし、先輩に教えてもらったちゃんぽん屋はやたら美味しいし、駅員さんたちが楽しそうだからどこかでバズって欲しい」

 「大津市民なのに今まで一番いいねを集めた写真は奈良だしお力になれなくてごめんなさい」と謝る人がいるかと思えば、「667年ごろ、天智天皇によって大津に遷都された時バズってたやろ。確かに、そこから1400年ほどは、バズってないけど」と歴史にちなんだツイートもあった。

 駅でも「何これー!」とポスターを見て驚いたり、展示が変わるたびに写真を撮ったりする人の姿が。JR西の社内からは「これ、大丈夫か?」と心配する意見のほか、「若い感性でできてうらやましい」といった声が寄せられているという。

「大津をもっと盛り上げたい」

 駅員の赤井さんは「決して炎上狙いではなく、誰も傷つけたくはない。だから掲示当初はポスターを見るのも怖かった」と振り返りつつ、「大変だけど殻を破って僕らも楽しいし、お客さんも笑顔になってもらえたらうれしい。何より大津がもっと盛り上がれば」と期待する。

 阪下駅長も「大津駅開業100周年という節目で、駅自体にもっと注目してもらいたい思いがあった。コロナで経営状況も苦しい中、われわれにとって挑戦であり、行動で示していきたい」と言葉に力を込める。

 バズった目安という1万リツイートに向け「道のりは険しい」(貞弘さん)が、スタンプラリーが終わるまで、さらに10種類以上の新作ポスターを掲示する予定だ。駅員たちの情熱と努力に、私の胸もだんだん熱くなるのが分かった。果たして、大津はバズるのか―。願いを込め、私も帰りのJR車内で、関連ツイートをいくつかリツイートしたのだった。

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