都営地下鉄各駅の構内に掲示された「桃太郎のポスター」がSNSで話題になっている。負傷した鬼に席を譲る桃太郎とお供の動物(犬、サル、キジ)を描いた公共マナー啓発ポスターなのだが、ネット上では「お前らがケガさせたんじゃねえの?」といった本筋とは別の次元で強烈なツッコミ投稿が相次いだ。そこで運営する東京都交通局に問い合わせたところ、想定外の回答が返ってきた。
「都営で鬼ヶ島 4話 負けた鬼にも優しい桃太郎」と題したポスターで、右腕に三角巾、右足にギブス、左脇を松葉杖で支える満身創痍の鬼に対して、「どうぞ」と席を譲る桃太郎の姿が描かれている。左前足を上げて鬼を席に誘う犬、優先席から飛び降りるサル、網棚で寝ているキジも。その下に「席は必要な方におゆずりください。」と記され、英語、中国語、ハングルも添えられている。
ツイッターでは「お前らがケガさせたんじゃねえの?」というツッコミに「的確過ぎて草」とリプライがあり、「もうどっちが鬼か分からんわ」「桃太郎、鬼をボコった後で座席を譲るの、まじでサイコパスじゃね?」「表では善人ぶるヒーローの屑」などと桃太郎側を非難する書き込みが続き、「戦後の日本とアメリカみたいなもんやね」と深読みするツイートも見られた。
「本当に鬼は悪いのか?」「正義の御旗を掲げた侵略者では?」などと、桃太郎をヒーロー扱いすることに異論を唱える説は古くからあり、今回のツッコミにつながる下地があったのかもしれないが、いずれにしても、SNSでこのポスターが話題になったことは確か。では、製作した運営側はこの反応をどう受け止めているのだろうか。「ディスる」内容が多いため、少々、気遣いながら問い合わせたのだが、意外にも前向きな返答だった。
東京都交通局の担当者は「マナー啓発に『逆転の発想』を取り入れることで話題性を狙いました。具体的には、マナー違反を行うのは悪者とされることの多い鬼ではなく、あえて桃太郎のお供の犬やサルとしたこと(第1話、第3話)、桃太郎がケガした鬼に席を譲る(第4話)など、遊び心のあるデザインを採用しました」と説明。その上で「特に第4話のデザインはSNS上でも話題となり、お客様の『つぶやき』の多さからマナーポスターへの関心・注目が集まっていることが見て取れ、私ども製作側の狙いが当たり、大変ありがたく思っております」と感謝した。
そう、実は「織り込み済み」だったのだ。
昨年度の検討段階では、ラグビーや五輪競技になぞらえたデザインなども候補だったが、老若男女、多くの人に親しみのある昔話の「桃太郎」を取り上げたという。担当者は「桃太郎を単なるデザインとして登場させるのではなく、年間5回のポスターにどのように物語性を持たせるか、村を出発して鬼ヶ島まで行き、また村へ帰ってくる物語の進行と、マナー啓発のテーマとを、どのようにリンクさせるかがこのポスターの成否のカギであると考えました。そこから『都営で鬼ヶ島』というサブタイトルを設定し、『桃太郎が都営地下鉄で鬼ヶ島へ行く』という架空設定の連続ものとし、『いつ鬼ヶ島へ到着するのか?』など、次回が楽しみになる啓発ポスターにしました」と明かす。
同シリーズは2019年6月開始。第1話が「犬とサルの駆け込み乗車」、第2話が「桃太郎一行のエスカレーターマナー」、第3話が「サルの歩きスマホ」…と、桃太郎側も注意される側として描かれていた。第4話の掲示期間は「概ね3月いっぱいを予定」という。
担当者は「東京2020大会に向けて、訪日外国人のみなさまにも分かりやすく、面白いと感じていただけるマナーポスターを今後も製作してまいります」と意欲的。今春、登場する第5話の展開も気になるところだ。話題のマナーポスターは東京都交通局の公式サイトで見ることができる。