リカちゃんが嵐山観光を楽しんでいる-。嵐山(京都市右京・西京区)を流れる桂川で、リカちゃん人形を乗せた“ミニ屋形船”が時々出現し、観光客の話題となっている。本物の屋形船が近づくと人形が手を振る場面も見られ、インターネットで情報が広がった。誰が何のために運航しているのか。探ってみた。
10月上旬、渡月橋上流の左岸付近にリカちゃんは確かにいた。全長1メートル、幅25センチの屋形船は本物の約10分の1の大きさ。乗客はリカちゃんと子どもの人形の計2体で、船首には船頭の人形もいる。船内のテーブルには、みたらし団子やジュースの入ったコップのミニチュアも見えた。本物の屋形船が近づくと、リカちゃんは愛らしく手を振り、乗客から「めっちゃかわいい」との歓声が上がっていた。
岸で船を操作していたのは高橋久夫さん(71)=西京区。約10年前から「観光客に楽しんでもらいたい」との思いで続けているそうだ。
長年、大手電機メーカーに勤め、海底ケーブルの開発製造などに携わった。20歳の頃からラジコンが趣味で、当初はクルーズ船などを持ってきていたが、屋形船を運航する嵐山通船(右京区)の関係者から「せっかくなので屋形船を走らせてみては」と依頼され、自作したという。船体にはベニヤ板を使い、じゅうたんはフェルト布で再現した。
ミニ屋形船を見た観光客などから「誰も乗っていないのは寂しい」「船内で食事をしている姿を見たい」との声を受け、リカちゃんや軽食のミニチュアも乗せるようになった。さらに「人形を動かしてほしい」と要望はエスカレートし、船頭が櫂(かい)で船をこいだり、リカちゃんが手を振ったりできる装置も取り付けた。観光客が船に近づくと手動で人形を動かし、「皆さんの声が集まった結果、今の船の形がある」と笑う。
季節感や社会の動きによって変化を見せる。人形の衣装は夏は半袖で冬は長袖。軽食もかき氷やスイカ、湯豆腐など気候に合わせる。新型コロナウイルスの感染が広がった昨春以降は、観光客の提案を受け、人形の口にマスク様の布を貼り付けた。リカちゃんのひざの上に乗せていた子どもも「ソーシャルディスタンス」のため、ひざから下ろした。京都府にまん延防止等重点措置が適用され、酒類が提供停止となった8月からは、ビール缶のミニチュアも撤去した。
ミニ屋形船の運航は1週間に1、2回程度で、午前10時ごろから夕方まで。会員制交流サイト(SNS)には船の写真と共に「嵐山にリカちゃんおったわ」などとのメッセージが多数投稿されている。
ラジコンの作り方を尋ねる観光客も多く、「いろんな方との出会いがあって、家にいるよりずっと楽しい」と高橋さん。コロナ禍で嵐山では閉店する店舗も出ているが、「嵐山に来た方の思い出の一つになってくれれば」と期待する。
感染対策をとりながら、遊覧を楽しむリカちゃん。その姿は嵐山観光の復活に一役買っているようだ。