「京都市営地下鉄の烏丸線に近鉄特急が乗り入れないのはもったいない」。そんな意見が、関東の大学研究者から京都新聞の双方向型報道「読者に応える」に寄せられた。「特急乗り入れは地下鉄線のみの利用も見込め、市交通局にメリットがある」という。新型コロナ禍による経営難に直面する市営地下鉄にとって、光明となるプランなのか。研究者に話を聞いた。
投稿したのは、江戸川大の大塚良治准教授(経営学)。観光を通じた地域の発展や鉄道経営を維持する方策などを研究している。近鉄が9年前に三重県四日市市の鉄道路線をバス高速輸送システム(BRT)に転換させると表明した際、地元住民と路線の存続案を作成したこともある。
市営地下鉄は、コロナ禍による乗客減が響き、経営健全化団体に転落。値上げによる収支改善策が検討されている。大塚准教授は「市交通局の経営努力は十分なのか」と疑問を抱き、増客策として「奈良や伊勢志摩(三重県)と結ぶ近鉄の特急電車が地下鉄烏丸線に乗り入れ、国際会館駅(京都市左京区)とつなぐ」というプランを発案した。
では、このプランでどれだけの利用が想定できのか。大塚准教授によると、近鉄京都線では京都(下京区)―近鉄丹波橋(伏見区)駅間という10分程度の距離でも特急の利用客が一定おり、約20分を要する京都―国際会館(左京区)駅間はさらにニーズが見込める。そのうえ、烏丸線各駅から奈良・伊勢志摩方面へのアクセスも向上するという。
関東では、小田急電鉄の特急が、2008年に地下鉄の東京メトロ千代田線に乗り入れを開始している。関西の鉄道会社も近年、座席指定の車両を導入している。京阪電気鉄道は17年に特急で「プレミアムカー」の運行を開始、JR西日本は19年、新快速に「Aシート」を設けた。阪急電鉄は今年2月、京都線で有料席導入を検討していることを明らかにしている。
大塚准教授は「小田急の特急は、都心部の地下鉄駅から郊外の小田急沿線の自宅まで確実に座って帰りたい、という都心勤務者の心をつかんだ。京都でも、京都市中心部から近鉄京都線沿線までゆったりとした電車で帰りたいというニーズは多いはず」とみる。
しかし、乗り入れのための費用はどれくらいかかるのだろうか。大塚准教授の計算によると、近鉄の特急車両乗り入れのためには安全装置やホームドアの改修に数十億円程度が必要と見込まれる。特急券販売システムの構築も必要だが、大塚准教授は「スマートフォンで購入する場合は割引料金とし、紙の切符は窓口でのみ発売とすれば、投資額はかなり抑えられるはず」とそろばんをはじく。
数十億円の投資は、財政難の京都市にとってかなりの重荷に思えるが、大塚准教授の試算では、仮に地下鉄線内の特急券を400円とした場合、1日上下計10本程度の乗り入れ特急を走らせると10年あまりで回収できる見込みという。
市交通局は、この提案をどのように受け止めるのだろうか。同局によると、実は2000年に近鉄京都線の急行乗り入れ区間が拡大された際、特急車両の乗り入れも検討されたという。当時の資料は残っておらず詳しい検討内容は分からないが、結果として実施は見送られた。
では現時点ではどうかと聞くと、新型コロナウイルスの感染拡大による利用減で、近鉄が京都―近鉄奈良(奈良市)駅間の特急を減便していたことを挙げ、「鉄道の利用が落ちている中で、特急を乗り入れたとしても乗ってもらえるか分からない。現時点で実現は難しい」とした。
一方の大塚准教授は「京都市交通局はコストカットばかりしている印象だ。経営状況が厳しい今こそ、攻めの姿勢が大事。特急乗り入れのような前向きなプランでイメージアップが必要だ」と説いている。