今となっては信じられないかもしれないが、京都市営地下鉄・バスに、政治家や市職員は無料で乗れる時代があった。市民から見れば「自分で乗車券買えば」となるのは当然で、2012年までに全廃された。
政治家の無料パスは少なくとも50年以上前に始まった。当時は全国の私鉄も国会議員にパスを配布し、「乗車して交通政策に役立ててもらう」ことが目的だった。ただ、京都市営地下鉄・バスは退職市議も無料にしていたため、目的自体も疑わしい。
市職員には市内部分の通勤代や出張用にパスを支給していた。休日も使用できた上、通勤区間だけでなく、市バス・地下鉄全線に無料で乗車可能だった。「厚遇」との批判を浴びたのも仕方ない。
市民の視線が厳しくなったのは、地下鉄バスの経営難が深刻化し、運賃値上げが相次いだころ。1998年の府議を手始めに、2004年に市職員、2005年に市議、2012年に国会議員のパスは廃止された。この程度で「身を切る改革」と胸を張られても困るが、一応、政治家も市役所も自ら“返上”を申し出た。
現在、福祉関係を除き、無料で乗車できるのは名誉市民ぐらいだ。2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんは名誉市民が贈られた時の会見でこの特典を知らされ、「皆さんが(私の)顔を忘れたころに使いたい」と話し、笑いを誘った。政治家や市職員に田中さんのような市民感覚があれば、もっと早く無料パスを廃止できただろう。