菅総理が退陣を発表してから、次の首相となる自民党総裁を選ぶ競争が激しくなっている。自民党総裁選にはこれまでのところ、河野太郎行政改革相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相が立候補を表明している(9月14日現在、石破茂元幹事長と野田聖子幹事長代行は調整中)。朝日新聞が9月11、12日に行った世論調査の結果によると、次の首相には誰がふさわしいか尋ねたところ、河野氏が33%と最も多くなり、石破氏が16%、岸田氏が14%、高市氏が8%、野田氏が3%となった。また、自民党支持者の間でも、河野氏が42%と他者(岸田氏19%、石破氏13%、高市氏12%、野田氏1%)を大きくリードする展開となっている。
一方、国際社会でもこれは大きな注目を集めており、新たなリーダーによって日本の立ち位置にも変化が生じてくる。では、河野氏、岸田氏、高市氏のいずれかが首相となった場合、どのような外交・安全保障政策を進めていき、それによって日本の立ち位置はどう変化することが予想されるのか。なお、ここでは日米、日中、日韓関係から見ていきたい。
まず、高市氏が首相となった場合である。高市氏は、既に時代に合った憲法の制定や防衛・安全保障の強化といった保守的な政策を進めると公言しており、基本的には日米関係(同盟)重視、それに基づいて中国に向き合い、日中関係が改善に向かうかは中国の出方次第というスタンスだろう。バイデン政権は日韓関係の改善を強く望んでいるが、そこでも高市氏は韓国には妥協せず、韓国には妥協しない態度で臨むことだろう。しかし高市氏は外交・安全保障分野の経験が十分ではなく、岸田氏や河野氏ほど国際経験があるわけではないので、バイデン政権との間でブッシュ・小泉、安倍・トランプのような関係を構築できるかには疑問符がつく。また、中国や韓国との関係が複雑化した場合、日本の堅い意思を内外に強く示すことができるか、その発信能力にも不安が残る。
次に、岸田氏だが、岸田氏は外務大臣を4年務めた豊富な経験があり、外交安全保障関係者の間では岸田首相を望む声も少なくない。岸田氏は、今問題となっているウイグル人権問題を例に、人権問題担当の首相補佐官を設置する姿勢を示しているが、ここからは、人権問題重視のバイデン政権との密な日米関係構築を目指す強い意志が想像できる。そして、日米関係を基本に、中国に対しては日中関係の重要性は示しつつも、厳しい時は厳しい態度で臨むことだろう。そして、韓国との関係でも妥協する姿勢は一切見せず、岸田政権になって日韓宥和モードになることは考えにくい。
最後に河野氏であるが、同氏も外務大臣経験者であるだけでなく、英語も非常に流暢で国際経験も三者の中では一番豊富だ。河野氏も高市氏と岸田氏同様、基本的には日米関係を軸に中国、韓国との関係を進めていくことになる。しかし、その性格も影響しているだろうが、この3人の中では最も日米関係を上手く回し、流暢な英語でバイデン政権とも個人個人の信頼関係を構築する可能性が高い。一方、韓国については外相時代、徴用工問題で駐日韓国大使に「極めて無礼だ」と伝えたことがあるように、何か揉め事があった際、3人の中では最も厳しい態度を示す可能性が高い。これは対中国についても同じだが、河野政権になると、3人の中では最も中国と韓国との関係が緊張、不安定化する可能性があるといえる。
いずれにせよ、米中競争がいっそう激しくなる中、日本が日米同盟を軸に進めていくことは変わらないが、誰が政権を握るかによって日米同盟の強度、日中、日韓関係の複雑さにおいては程度差が出てくるであろう。