「自分の事を馬だと思っている牛」がいた 「乗馬」じゃなく「乗牛」ができる牧場、飼育担当者に聞いた

太田 浩子 太田 浩子

「六甲山牧場には自分の事を馬だと思っている牛がいます
名前はランボルギーニ❗❗
子供の時から馬の群れで育ったので馬のように走り、馬のように人も乗せれます」

と写真とともにツイートした六甲山牧場【公式】(@rokkosanbokujo)さん。そこには競走馬とホルスタインがならんで写っています。ですが、鞍をつけて人が乗っているのは牛の方。なんとも不思議な写真に驚きの声が寄せられました。

「北海道に住んでホルスタインはよく見てるけど、この光景は衝撃すぎる!!!のってみたい!」
「心なしか姿勢も馬っぽい」
「ランボルギーニ Cowンタックですね。」
「カッコイイ」
「へぇ。馬の中で育つと牛が馬だと思ってしまうなんて。面白い」
「こんな素敵な牛さんがいたなんて」
「名前のセンスが好きすぎる(*´ω`*)」

 堂々とした姿のランボルギーニは5歳のメス。サラッと人が乗っているように見えますが、乳牛に鞍をつけて乗るという状況は普通は考えられません。本来なら振り落とされてしまいます。ランボルギーニは生まれてからお乳が必要だった3カ月までは牛舎で過ごし、その後はずっと馬と一緒に馬舎で暮らしています。牛に興味を持ってもらうキッカケ作りを目的にこの取り組みを発案した「六甲山牧場」(兵庫県神戸市)の馬の飼育担当・前田浩樹さんに聞きました。

ランボルギーニは自分を馬だと思っている

 前田さんが「ランボルギーニが自分を馬だと思っている」と感じたのは、ランボルギーニが生後1年弱のころでした。伸びてきた角を切るために、牛舎に連れて行ったところ…。

「ほかの牛を見てめっちゃびっくりしてたんですよ。『なんじゃぁ~あの生き物は?!』という感じで(笑)。それを見て確実に自分のことを馬だと思ってるなと確信しました」と前田さん。鏡で自分の姿を見たらびっくりするかもしれませんね。

 また、牛の獣医さんに「いやぁ、これは牛じゃないなぁ」と言われたことがあるそう。馬は耳でもコミュニケーションをとるため、耳をよく動かします。ランボルギーニは馬のコミュニケーションを学んでいたので、牛らしくない耳の動かし方をしていたようです。

ランボルギーニは馬とコミュニケーションが取れる

 馬舎に来てすぐのランボルギーニは、馬社会のルールや馬語(音声ではなく)を知らなかったため、馬に怒られることもありました。ですが、すぐに馬が何を言っているかを理解できるようになり、馬が「あっちに行って」と言っているときには違う場所に行ったり、近づいてもいいときにはランボルギーニから馬に近づき、馬もそれを受け入れたりするようになったと言います。

「子牛の時から馬社会のルールを学んで育ってきたので、見た目だけ牛ですけど中身は馬だと思うんですよ」と前田さん。幼少期に育った環境が、生態に大きく影響することがわかります。

トレーニングは馬と同じですが、ひとつだけ違うところが…

 ランボルギーニにどうやって、トレーニングをしたのでしょう? 六甲山牧場では馬社会のコミュニケーションを真似て、指示が伝わるように教えています。そのため、馬のコミュニケーションを学んだランボルギーニは、馬と同じトレーニングが理解できたのだそう。教え方も乗っているときの合図も、馬とまったく同じです。

 ところが、2020年の秋にランボルギーニに変化が起きます。牛は角を持ち、いざとなったら敵と戦うこともある動物。一方馬は、ただひたすら逃げる。その違いからか、ランボルギーニが人より大きくなったころに反抗期みたいなものがおとずれます。動きたくないときには「なんで動かなあかんねん」と、前田さんと綱引き状態になり引きずられることもあったそう。そこで馬にはつかわない「ご褒美」の乾燥牧草の塊(ヘイキューブ)をあげてみたところ、スムーズにトレーニングができるようになりました。

「昨年11月くらいからあやしくなってきて、12月と1月はめちゃくちゃ暴れていました。でも、草の塊でどうやら納得したみたい。今はかなり協力的ですね」と話す前田さん。人間の子どもと同じだと笑います。

気になる乗り心地は?

 多くの人が気になるランボルギーニの乗り心地ですが、前田さん曰く「体が太く、首が短いくらいで、歩いているときは目をつぶったら牛に乗っているとは気がつかないくらいだと思います。走ると馬より上下運動がありますが、今後、ランボルギーニが首でバランスをとるようになって馬のように走る可能性もゼロではありません」とのこと。

年内に乗牛体験も実施予定

 ランボルギーニの体がしっかりして、心も安定してきたので、牧場では今年中にお客さんを乗せる乗牛体験や引き牛体験をする予定です。

 そのほか、ランボルギーニに会いに行くこともできます。ランボルギーニは、北エリアのホースリンクなど、馬舎周りにいることが多いそう。乳牛より人と深くかかわってきたからか人が大好きなので、名前を呼んだら寄ってきてくれることもあるそうです。そばに来たら、馬のように首や額のあたりを優しくさわってあげることもできます。

ランボルギーニとのふれあいから、気づきや感謝を

 ランボルギーニを馬と一緒に育てた理由について前田さんに聞いてみたところ、「お客さんを乗せたいという思いはあるんですけど…乳牛って牛乳や乳製品などで、一番お世話になっている動物だと思っています。牛乳の出が悪くなったり、子どもが産めなくなったら、今度は肉になったり…。当たり前になりすぎて意識すらしないと思うんですけど、ランボルギーニを通してそういうことへの気付きや感謝の気持ちみたいなものを持ってもらうきっかけ作りができたらと思っています。そのために、ランボルギーニと一緒に面白いこととか、楽しい思い出を作ってもらえるようなことをたくさんやっていきたいです」と話してくれました。

 ◇ ◇

 ランボルギーニがいる六甲山牧場は、広大な土地に羊・ヤギ・牛・馬などの動物がいる高原牧場です。牧歌的な景色の中でのんびり過ごせる牧場では、動物とのふれあい、手作り教室、チーズ工場見学、レストランでの食事などが楽しめます(新型コロナウイルス感染拡大防止のため、一部規制中)。

■神戸市立六甲山牧場 https://rokkosan.jp/

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