「今度こそ」「お兄ちゃんたちの分も生きて」誕生したアシカの赤ちゃんを「24時間」力を合わせ見守る動物園の思い

茶良野 くま子 茶良野 くま子

 浅瀬でチャプチャプとひとり水遊び、お昼寝も「ひとりでできるもん!」ですが、時々母親を呼んで鳴き声をあげるカリフォルニアアシカの赤ちゃん。神戸の動物園で誕生して2カ月。泳ぎもどんどん上達し、寝ても起きても「かわいい」の歓声にまじり、「大丈夫かな」「母乳飲めてる?」と心配の声も。そこには、悲しい出来事を乗り越え、今度こそ大きく育ってほしいと願い、支える動物園、見守る人たちの温かくも切実な思いがありました。

 市立王子動物園。コナツ(メス11歳)、カイト(オス10歳)、スミレ(メス8歳)が暮らすアシカ池に、コロナ禍による臨時閉園中の6月19日、メスの赤ちゃんが生まれました。3年連続で出産した母親はスミレ、父親はカイトです。でも、一昨年生まれたオスの赤ちゃんは、溺死。去年のオスの赤ちゃんは感染症のため、いずれも数カ月しか生きられなかったのです。赤ちゃん誕生を伝える公式ツイートにはお祝いの声以上に「今度こそ大人になるまで育って」「お兄ちゃんたちの分も」と成長を願うコメントが連なりました。

 「出産直後からスミレは赤ちゃんの体を舐めたりと慣れた様子で世話していました。父親が時々、気にして近づこうとしましたが怒られ退散していました」と獣医師で飼育展示係長の谷口さん。親子にとってストレスになる要素を少しでも取り除こうと、数日後の再開園時には厳重な観覧制限を実施。一方で、見守り体制をより強固にするため、屋外に1台、寝室に2台の監視カメラを設置。飼育スタッフらが各自のスマートフォンで24時間確認できるようにしました。出産前から毎月のプール掃除を控えているのも親子のストレスを減らすため。その代わりに毎日プールの井戸水を一定量抜いて、水道水を加え水質を維持。また、水位を上げることで、赤ちゃんがプールと陸の行き来をしやすいようにしています。

 今度こそ、と環境は整え、あとは母親に任せるしかありません。「スミレの育児は『放任主義』。最初の頃は赤ちゃんが水に入ろうとするとすぐに助けに行っていましたが、今は自由に泳がせています。子が鳴いても遠くから見ているだけのことも。様子だけは確認しているようですが…」と谷口さん。マイペースな育児ぶりですが授乳はしっかりできており順調に成長中。名前は来園者の投票で、「あおい」に決定。「太陽に向かって大きな花を咲かせるアオイのように、すくすくと成長してほしい」との思いが込められました。

 「一昨年生まれたヨギは、とても好奇心旺盛で、深いところまで泳ぐようになるのも一番早かったです。去年生まれた新右衛門は、人に馴れてくれ餌の時間には寄ってきて体を触らせてくれました」と谷口さん。可愛い盛りに突然、消えてしまった2頭。日々見守っていた来園者にとっても辛い経験でした。

 アシカやアザラシなど海獣類の子どもは、丈夫そうに見えて比較的死亡率が高いのだといい、対策が難しい面もあるそうですが、無事に成育してもらえるよう健康管理について議論を重ねてきた同園。「たくさんのご心配やエールを頂き、感謝の念に堪えません。私たちとしては、スミレが安全に育児できるよう見守り、赤ちゃんが万が一、衰弱した場合にはすぐに隔離・加温・治療を行えるよう設備と態勢を整えるのみ。どうか、赤ちゃんの成長を温かく見守っていただけたら」と話してくれました。

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