自分の看病に安心して
がんの患者ではなく、看病する“家族”の日常にスポットを当てた日本初の短編ドキュメンタリー映画「がん家族」が8月14日からWEB上で限定公開される。
映画は、「同居」で母親を看病する男性と、「通い」で母親を看病する女性に密着した2本立て。どちらも30分以内の短編映画となっているが、そこにはドラマティックな演出も、お涙頂戴のようなシーンもない。さり気ない会話、いつもの食事…がん家族の、よそいきではないリアルな日常がそのまま切り取られている。
「不安で押しつぶされそうになっている全国のがん家族に、『安心して、あなたはよくやっている』って伝えたかったのです」と話すのは、監督・撮影・編集を手がけたがん家族セラピストの酒井たえこさん。
酒井さんは、がんになった父親を看病した経験からがん家族の孤独と孤立を実感し、以降、十数年にわたってがん家族をサポートしている。
がん患者を看病する家族=「がん家族」は、「自分の看病は足りているのか」「治療の選択は正しかったのか」といった不安から自らを追い込み、心を疲弊させてしまう人が少なくないという。
しかしその不安は、「家族のがんから目をそらさず、看病を選んだ人たちだから感じるもの」だと酒井さんはいう。
「弱っていく患者の心の叫びを受け止めながら毎日のように治療の選択を迫られる。その重圧は相当なものです。だけど、看病することを選び、実際に看病をしている人は、それだけで『よくやっている』と私は思う。そんな人たちに『自分の看病は間違っていないんだ』と安心してほしくて、ほかのがん家族の普段の生活を映像にしようと思いました」。
「ほかのがん家族がどんな会話をして、どんな食事をして、どんな看病をしているのか――。それらを具体的に知ることは、自分の看病に安心することや、肩の力を抜くことにつながるはずです」。
映画に登場する2組のがん家族は、「自分たちの自然な姿を見てもらうことで、看病をしている方々のお役に立てるなら」と出演を快諾。114日間の密着の中で、ありのままの姿を酒井さんに見せた。
「撮影中は、がんという大きな波の中で悩み、ときには泣きながら語ってくれることもありました。だけど、悩んでばかりかというとそうではない。ほほえましい日常や小さな幸せがそこにはちゃんとありました」。
ナレーションはM-1ナレーターが担当
クラウドファンディングによる支援金74万円で製作された自主製作映画「がん家族」だが、プロジェクトには酒井さんの想いに共感したクリエイターたちが有志で参加している。
「来年の桜もいっしょに見ようね」というがん家族の想いを表現したタイトル画像は漫画家のたちばないさぎさんが、散る桜ではなく舞い上がる桜の花びらをイメージしたエンディングテーマ「舞い上がれ、桜の雨」は音楽家のkiro(magcafe at garden)さんが担当。ナレーションは、M-1グランプリのナレーターとしても知られる畑中ふうさんが担い、映画に親近感と適度なスパイスを与えている。
「コロナによる面会制限などで、これまでよりもさらに大きなストレスにさらされているがん家族に、『あなたはひとりじゃない』と伝えられたら。そして、孤独の苦しみから一歩前進して、患者との大切な時間に笑顔が増えることを願っています」。
映画は8月14日~8月18日にYouTubeで、8月19日~8月23日に動画サイト「かなやtube」で限定公開される。
▼映画「がん家族」公式サイト
https://eigagankazoku.jimdofree.com/
▼かなやtube
http://kanayatube.jp/
▼酒井さんが代表理事を務める「一般社団法人Mom ami」
https://www.monami47.com/