皆さんは「認知症バリアフリー」という言葉をご存じでしょうか?認知症バリアフリーとは「認知症の方が不自由や不便を感じることが少ない生活空間や環境」のことをいいます。厚生労働省では「認知症施策推進総合戦略」通称オレンジプランを掲げ、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指しています。超高齢社会を迎えた日本にとって、認知症は誰もが関わる可能性のある身近な病気です。
今回取材を受けてくれたのは岐阜県在住のAさん(会社員・40代)です。Aさんは現在、認知症になった80代の祖母Hさんの介護をしているなかで、「地域力」の大切さを感じていると話してくれました。
異変は突然やってきた…
Aさんは20代で結婚し、30代のときに不慮の事故で両親を亡くしました。Aさんが40代になったいまは、家事と仕事を両立しながら一人で暮らすHさんの介護をしています。
Aさんの両親、またAさんにも兄弟はいません。そのためHさんの介護を行うキーパーソンはAさんしかいない状況です。
Hさんは約10年前に旦那さんを亡くし、一人で生活をしていました。体はとても元気で毎日近所の方と散歩に出かけたり、畑作業をしたりと活動的に過ごしていました。しかし約3年前から物忘れが多くなり、身の回りのことができなくなってきたのです。Aさんの携帯電話には昼夜問わずHさんから連絡が入るようになり、Hさんの様子に異変を感じたAさんはHさんを説得し病院を受診した結果、Hさんは認知症と診断されたのです。
一時は施設への入所について検討したが…
Hさんは約3カ月入院することとなりました。その間、AさんはHさんの近所の方にこれまで何か迷惑をかけたりしていなかったかと聞くと、近所の方はHさんが認知症かもしれないと感じていたそうです。散歩に一緒に行くと道がわからなくなったり曜日や時間がわからないということがあったと話してくれました。
Aさんは「近所の方に迷惑をかけるわけにはいかない」「自分も仕事があるから1日中、介護はできない」と悩み、施設への入所について検討しはじめました。
退院当日、Hさんと一度施設を見学することにしたAさんは車で施設の方へ向かいました。するとHさんが突然「私の家はこっちよ!どこに連れていくの…。畑をしないといけない」と大声で怒り出したのです。
「お父さんのご飯を作らなくちゃ」住み慣れた地域で生活する理由
Hさんの様子や思いを聞いた上で施設へは入所せず、旦那さんとの思い出が詰まった家で生活を続けることにしました。介護保険サービスの利用や近所の方の力を借りながら、いまHさんは認知症を患いながらも一人で生活を送っています。介護保険サービスや身内だけでは認知症高齢者の地域生活を十分に支えることは難しいという現状があります。そうなるとやはり地域の力が必要です。Hさんが暮らしている場所の「地域力」はとても強いとAさんは話してくれました。
Hさんは月日を追うごとに認知機能の低下が進んでいることも否定できません。しかし「父さんのご飯を作らなくちゃ」と毎日畑作業をしながら、たまにご近所さんとおかずの交換をして楽しんでいます。Hさんはいろいろな人のサポートを受けながらHさんらしく毎日を送っているそうです。Aさんは時に認知症高齢者を施設に入れずに一人暮らしをさせていると言われることもあるそうですが、Hさんが地域で生活したいという思いがある間は、サポートを受けながらいまの生活を続けさせてあげたいと笑顔で話しくれました。