「私、友達は作らないんです。」橋田壽賀子さんが遺した言葉に、混迷の今を生き抜くためのヒントがある

松田 義人 松田 義人

 

今年4月に95歳で亡くなった脚本家・橋田壽賀子さん。代表作に『渡る世間は鬼ばかり』『おしん』『おんな太閣記』などがありますが、これだけでなく多くのテレビドラマ、映画、舞台などの脚本を手掛け、日本の文化を底上げした功績はあまりに大きいです。

一方、タレントや作家としての活動も有名で、橋田さんご自身のキャラクターもまた多くの人から愛され、また生きる上でのお手本にする人も多かったことでも知られています。

橋田さんが亡くなった3ヶ月後の7月、大和書房より『橋田壽賀子のことば 渡る世間にやじ馬ばあさん』という本が刊行されました。亡くなって間もない人の本とは思えないほど、かわいらしくポップな装丁で、この明るさもまた橋田さんらしく感じる一冊です。

本書は、1960年代から2021年までに橋田さんが様々な新聞、雑誌、テレビなどで発言したことばや、数多くの著書から抜粋したコラム集で、小難しい筆致はなく、どこか柔らかく、そしてときにグサっと鋭いことばの数々が編まれています。

ここではこの本の中から、特に「混迷の今」に役立ちそうなことばを名言として抜粋し、ご紹介したいと思います。

橋田さんの名言① 終活して準備整い、サッパリとその時を迎えられます

橋田さんは89歳になった際、「終活」を行ったそうです。持ち物の整理を1年かけて行い、弱った足腰をいたわりながら、ノルマに追われない生活をおくっていたそうです。

昼間はかつて自身が手がけたテレビドラマの再放送を見て、亡くなった俳優さんを懐かしがることもあったそうですが、一方で橋田さん人気は衰えることがなく、脚本の仕事が舞い込んでくることも。字を書くことも嫌になり「終活」に至ったところが、結果的に周りがそれを許してくれないこともあったようです。

橋田さんの名言② 感動することも、知りたいことも、すべてがオバサンの感覚なの

橋田さんは、ご自身の「オバサン度の高さ」を自認されていたそうです。「芸術性はまったくなく、カッコつけようと思うと、絶対にドラマは当たらない」とも。ここからはとかく情報過多な時代、背伸びして本来の自分以上の価値を見出す、目指そうとしても、良いことなんて全くなく、「そのまま自分で良いのではないか」と言っているように感じられました。

橋田さんの名言③ 私、友達は作らないんです。ほんとに欲しくないんです

「友達は多いほうが良い」というフワッとした風潮がありますが、これに対しても橋田さんご自身は「お友達がいないというのはすごくさわやか」と語っています。もちろん、橋田さんに全く友達がいないというわけではないのですが、ベタっとした関係を好まないのだそうです。現在、SNSなどでは友達の数、フォロワー数の数などを競い合うように増やしたがる人もいますが、こういった「常識」と一線を画した考えを持つと、意外とスッキリとした生活をおくれるのかもしれません。

橋田さんの名言④ 理想の家族は知っている人同士が暮らす第三家族

 「友達は欲しくない」と語る一方で、橋田さんは「人との繋がり」には強い考えをお持ちだったようです。ここで橋田さんが言う「第三家族」とは、いわゆる「家族」ではなく「知っている人同士が家族のように暮らす」ことを指すようです。「これからは第三家族を持たないと、家族だけではいろんな意味から重くなってしまう」とも語っておられ、まさに今のコロナ禍における憂鬱を予言しているかのように思いました。

橋田さんの名言⑤ 時代に無理についていかなくてもいいんじゃないですか

 とかくアンチエイジングが美徳とされ、老=悪のような風潮がある中ですが、この点についても橋田さんは「若い人に任せればいい」とアッサリ語っています。さらに橋田さんはファクスも嫌いで、パソコンも使わず、原稿は晩年ずっと手書きだったそうです。ここで仮に「古い」「二流」と言われても結構で、「年寄りが古いのは事実ですから」とも。スッキリした橋田さんならではの言葉で、特に年配の人は癒される言葉なのではないかと思いました。

「どうすればいつも元気でいられるか」のコツが詰まった一冊

 ここまでに紹介したのは、本書のほんの一部で、実際はさらに数多くのことば、コラムが紹介されています。手に取りやすく読みやすい一方で、橋田さんの深いことばは多くの人に届くことだろうと思いました。

最後に本書の制作を行った矢島ブックオフィスの矢島祥子さんにお話を聞きました。

「どうすればいつも元気でいられるか……そのコツを知りたい人に最適な本です。また、上手に歳を取りたい方にもピッタリだと思います。橋田さんのお茶目な笑顔と元気な声が聞こえてくるようです。初々しい新婚旅行の写真から、テレビ出演の写真、女優さんとのお付き合いの写真、晩年の愛猫との写真などもふんだんに掲載した明るく楽しい本です」(矢島さん)

橋田さんの明るさ、前向きさと合わせて絶対に他者に悟らせないような、丁寧な配慮がされた一冊でもあると思いました。心地よい読後感と、生きるヒントを得られる橋田さんのことば、ぜひご一読してください。

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