京都市は、全国的に見ても夏の雷が多い。古くから「丹波太郎」「山城次郎」「比叡三郎」と呼んで、突然の雷雨に注意を促している。「積乱雲3兄弟」はそれぞれ、名前の方角から京都をめがけて来襲し、激しいゲリラ豪雨をもたらす。
丹波太郎たちは、真夏の日差しと上空の寒気によって生まれる。まず、強い日射で地面近くの空気が暖められ、上昇気流が発生する。このとき上空に寒気があると、「軽い暖気」と「重い冷気」が激しく対流を起こし、積乱雲の卵ができる。複雑な地形の方が対流は起こりやすいため、丹波太郎の故郷は兵庫県北部の山地、山城次郎は奈良県北部の山地が多い。
なぜ、それぞれ京都市をめがけてくるのか。京都の積乱雲を長年調べている気象予報士で光泉カトリック高(草津市)講師の村山保さんは「上空の風向きが行き先を左右している」と説明する。
夏の太平洋高気圧が西日本に強く張り出すと、京都府の上空5千メートル付近は西~北西の風になる。丹波太郎はこの風に乗り、発達しながら福知山市や南丹市などを経て京都市に向かう。標高が低い亀岡盆地で一時衰えるが、愛宕山(924メートル)を越えるときに再上昇して勢いを取り戻し、京都市街は激しい雷雨になる。
一番高い山を越えてくる長男の丹波太郎が威力も一番激しい。京都盆地で衰えず、大津市まで進んで豪雨をもたらすこともある。
一方、山城次郎と比叡三郎は、夏の高気圧が張り出し、かつ東シナ海付近に低気圧がある時にやってくる。このとき、上空5千メートル付近は南~南東の風が吹き、奈良県北部や滋賀県南部で発生した積乱雲が流れてくるという。
近年、3兄弟に弟2人が誕生している。“四男”の「桃山四郎」は、2年前まで村山さんが顧問を務めた桃山高(京都市伏見区)グローバルサイエンス部の生徒たちが存在を確認した。丹波方面から来た積乱雲の卵が、京都市街の都市熱によって徐々に発達し、伏見区桃山付近で積乱雲となり雨を降らせ始める。
3兄弟に比べて出現頻度は低い。しかし、いったん現れると次々に同じ場所で発生する特徴があり、兄たちより長く雨を降らせ、京都市南部や宇治市で浸水害の恐れが高まる。
また、大阪から淀川沿いに京都へ向かう「田辺五郎」という“五男”も気象関係者の間で認識されている。大阪市や近郊の都市熱で発達しているとみられる。「現代っ子」の積乱雲も、夏の新たな脅威となっているようだ。