「ルルゲさんって何や」。隣の席に座っていた上司が声を上げた。京都市右京区の古墳を巡るツアーについて取り上げた記事を読んでいたらしく、コース上に「ルルゲさん」という史跡があるらしい。「ゲルゲットショッキングセンター」という往年のラジオ番組なら知っているけど、ルルゲさんは知らない。その名称の謎を解明すべく動き始めた。
「古墳巡るツアー」の記事では、ルルゲさんは「地元の人が災難よけと信仰する」とある。どうやら信仰の対象らしい。「信仰」「ルルゲ」…。日本語なんだろうか。
ひとまず、手掛かりを求めて広辞苑第7版(岩波書店)を調べてみた。「縷縷(るる)」はある。その次は「ルルド」。ルルドはフランスの町で少女が聖母マリアを目撃し、奇跡が起こったという泉がある町だそうだ。信仰という意味では近そうだが、フランスの話であって京都の話ではない。
続いて「京都大辞典」(淡交社)を見てみる。こちらも残念ながら「ルルゲ」の項目はない。複数の地名辞典を見ても手がかりは得られなかった。
インターネットで調べると、京都市埋蔵文化財研究所が発行する「京都歴史散策マップ」というのが見つかった。京福電鉄(嵐電)車折神社駅の近くらしい。よし、それなら行ってみるしかない。
京都歴史散策マップによると、ルルゲさんは車折神社駅の北の有栖川沿いにあるとのこと。あった。人の背丈よりも大きな石に「南無妙法蓮華経」と刻まれている。
どうやら、この石は近くの古墳に用いられていたようだ。京都市考古資料館の加納敬二さん(69)は「近くの甲塚(兜塚、かぶとづか)古墳の石材を利用したものとみられています」と話す。鎌倉時代の日蓮宗の僧侶、日像が近くにある古墳の石室に隠れて難を逃れ、後に感謝を込めてその石材に「南無妙法蓮華経」と刻んだとされる。
で、「ルルゲ」というのはどこから来た言葉なんだろう。「仏教用語で龍華(りゅうげ)という言葉がありますよね。そこから来たのでは」と加納さん。
日像ゆかりの寺に聞くしかない。上京区の妙顕寺に聞くと、答えが見えてきた。「日像上人の戒名は龍華樹院(りゅうげじゅいん)といいます」と電話口の担当者。どうやら「龍華樹院」がなまって「ルルゲ」となったようだ。
古代の古墳に鎌倉時代の僧侶が刻んだという言い伝え。しかもそれが信仰として現代まで残る。京都の歴史はなんとも重層的だ。