道頓堀や新世界、梅田の道端で…公園も道路も全部「落語の稽古場」 笑福亭鶴笑一門の挑戦

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

コロナ禍で仕事の機会が奪われ、さらに対面での稽古も困難になっている落語家。その中でも密にならない工夫を凝らしている方がおられます。

その人こそ、笑福亭鶴笑(かくしょう)師匠です。2019年に入門した笑生(しょうき)さんのお稽古は、一度も部屋の中で行っていないとのこと。鶴笑師匠が稽古場に選んだのは、なんと公道。大阪の道頓堀や新世界、梅田の道端で笑生さんと向かい合ってお稽古です。ネタをつけたり、稽古を見たりしています。

真剣にやっていれば邪魔をする者はいない

元々上方落語は、辻に立って行われていました。上方落語特有の見台と膝隠し、小拍子は、大きな音を出して雑踏の音に負けないようにするためのもの。今も大きな声を出すために、見台を叩きながら話す『東の旅の発端』が上方では基礎ネタとされています。

路上でのお稽古はいわば、上方落語の原点に戻るもの。大きな声を大きな空の下で存分に出すと、とても気持ちが良いと鶴笑師匠はおっしゃられていました。それに、天国の先人からも見守ってもらえるような気分になるようです。

もちろん警察に目を付けられますが、「公演」でないことが分かると見逃してくれたとか。それより厄介なのは酔っ払い。酔っているから理屈が通じない。それでも稽古中ですから応対はできません。鶴笑師匠と笑生さんの真剣勝負の真っ只中です。

鶴笑師匠は言います。

「こちらが真剣にやっていると分かると、邪魔をしようとする人は一人もいません」

この言葉の通り公道での稽古中、絡んできた酔っ払いもエスカレートすることはありませんでした。スキを生み出さない真剣勝負だからこそ、周囲も二人の世界にしてくれたのでしょう。

さて、次なる鶴笑一門の挑戦の場は、公道以上に人通りが激しいフードコートです。

フードコートで落語会を開催!観客も集中力が必要

フードコートでの落語会の出演は、鶴笑師匠と2019年入門の笑生さん、そして入門1カ月の笑有(しょうゆう)さん。他、アマチュア落語家の広福亭大福さんの公開稽古もかねて、奈良市の商業施設「ミ・ナーラ」のフードコートで開催されました。笑【福】亭と広【福】亭だから「ふくふく落語会」という名称です。

入場料は無料。駐輪場からすぐの場所の入口から真っ直ぐに伸びる通路を挟んで、高座と客席が作られています。客席には鶴笑師匠のご贔屓さんがたくさん!しかし、通路は人通りが絶えません。これで落語会が開催できるのか、はたから見るととても不安になるもの。

この日は公演中の写真撮影もOK。観客だけでなく、隣の屋台のご主人もスマホを構えます。

開演前に鶴笑師匠の挨拶があり、トップバッターはアマチュア落語家の大福さん。『看板のピン』を熱演します。途中、前を通り過ぎるお客さんが幾人かいましたが、最後のサゲまでやりきりました。

一人終わって感じたことは、演者のみならず観客もかなりの集中力を要すること。いつも以上に集中していないと、つい周囲の雑音に落語がかき消されてしまいます。

入門1カ月の笑有さん登場、続いて福井から汽車で来た笑生さん

大福さんの後には、笑有(しょうゆう)さんが登場。鶴笑師匠の自宅近くの扇町公園でつけていただいた『初天神』でフードコートの喧噪に挑戦です。マクラは挨拶だけ、師匠譲りの端正な口調で天神祭りの屋台を眺める親子の姿を描きます。

とちることも忘れることもなく、集中して観客と向き合えるのは、扇町公園での稽古のたまものです。見事、『初天神』を演りきりました。途中マイクが下がるアクシデントがあったものの、堂々としたものです。

続いて、笑生さんの登場です。こちらも堂々とした高座で、マクラも家庭での出来事をふっていきます。この日は「汽車」に乗って奈良まで来られたとか。「電車」ではないようです。客席から笑いも起き、本当に入門間もない落語家なのかと思うほど。

ご自身の痔の手術のエピソードから、医者が登場する落語『犬の目』を披露。声もよく出ており、良い高座でした。観客の笑い声も一段高くなったかのよう。時折前を通り過ぎる人に気を取られることもありませんでした。さすが!

鶴笑師匠の登場に大きな拍手が!

いよいよ観客お目当ての鶴笑師匠の登場です。交通費のいらない弟子(?)のつる吉くんと一緒に高座へ上がります。マクラもそこそこに『いらち俥』が始まります。声の通り方が若いお弟子さんやアマチュアのお弟子さんたちと全然違う!さすが芸歴37年のベテランです。

つる吉くんが飛んだり跳ねたりの大熱演で、サゲの後は観客からの大きな拍手が湧きおこりました。終演後は密にならないよう気を付けつつ、観客と写真撮影のサービスもあったんですよ。

このような雑踏での稽古の狙いを鶴笑師匠は、集中力と動じない心を培うためだとおっしゃいます。これを身に着けてほしいがために弟子に行っているとか。

フードコートで行われた「ふくふく落語会」で感じたのは、高座に近寄っていく人がいないこと。小さなお子さんも近寄って邪魔をしようとする人はいませんでした。これこそ、鶴笑師匠の言う「スキのない状態」なのでしょう。

鶴笑師匠からのメッセージ

「みなさん、笑いを忘れないでほしいです。今はお役に立てませんけど、何かを見つけて笑ってください。笑うと元気になり、一歩踏み出す勇気も湧いてきます。つらい人もいらっしゃるでしょうが、笑いは笑いを呼びます。笑っていきましょう」

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