引きこもりの息子が20数年ぶりに家の外へ 自分の居場所を見つけた矢先…緊急事態宣言が招いた家族の孤立

長岡 杏果 長岡 杏果

新型コロナウイルスの感染がこれまでにないほどの勢いで拡大する中、多くの方が我慢を強いられる環境におかれています。また飲食店だけではなく、病院や高齢者・障害者施設においてクラスターが発生したというニュースが後を絶ちません。とくに病院や施設では誰か一人が感染すると一気に感染が拡がってしまうリスクが高いことから、感染対策はとても厳しく行われています。

こうした感染対策の強化により、いま大きな不安を抱える家族が多くいます。取材を受けてくれたのは、愛知県在住のAさん(40代・男性)とその母であるYさん(60代・パート勤務)です。Aさんは16歳からひきこもりの生活を送っていましたが、2019年11月にひきこもりの方を支援する通所施設に通うようになりました。しかしその3カ月後の2020年2月、新型コロナウイルスの感染が拡大したのです。

「これまであきらめずに頑張ってよかった」そう喜んだあの日の笑顔

Yさんの子どもであるAさんは高校生のとき同級生からの心無い言葉に傷つき、不登校となりました。そしてその1年後、高校を中退し、外はもちろんトイレに行く以外はほとんど自分の部屋から出てこなくなりました。YさんはじめAさんの父親、親戚はどうにかAさんを部屋から出したいと必死になればなるほど、Aさんと家族の関係は悪化していきました。

しかし2019年7月にAさんの父親が亡くなったことで、Aさんの心に変化が訪れました。Aさんは父親の葬儀に参列することができませんでした。Aさんは当時の心境について「父親が死んだ…。いつかは母親も死ぬ。その前に勇気を出してみようと思ったんです」と話してくれました。

そして迎えた2019年11月。多くの方の支援を受けながら、ひきこもりの方を支援する施設に通うことが決まりました。二十数年ぶりに自宅から外に出たのです。このときYさんは号泣しながらAさんを見ると、Aさんの目からも大粒の涙が流れていたそうです。Yさんは「これまで何度もあきらめそうになった。でもあきらめずに頑張ってよかった」と心の中で何度も叫んだそうです。

やっと見つけた居場所…しかし行くことができない

それからAさんは毎日、施設に通うようになりました。慣れるまでは外に出ること自体を苦痛に感じることもありましたが、同じ苦しみを経験した人たちと話すことで「一人じゃない。自分にも友達がいる」と感じることができるようになったそうです。施設に通い、将来はアルバイトをしてみたいと希望を抱いていた矢先の2020年2月に新型コロナウイルスが日本を襲ったのです。

その3カ月後、Aさんが住む愛知県に緊急事態宣言が発令され、Aさんは施設に通うことができなくなりました。自分の居場所を見つけたとうれしそうに施設に通っていたAさんでしたが、予期せぬ出来事に落ち込み、部屋から出てくることはできるものの外に出ることができなくなりました。「誰かと仲良くなると、必ず誰か(何か)が邪魔をする」とAさんが小さな声で記者に話してくれたことが深く印象に残りました。

コロナ禍のいま…家族が孤立している現状

緊急事態宣言が明けたあと感染の拡大は落ち着きをみせたものの、第2波・第3波と感染の波が押し寄せ、さらに変異株といわれるウイルスが日本全国に猛威を奮っています。こうした感染状況を受け、Aさんの通う施設も受け入れを再開してもまたすぐに受け入れを中止せざる得ない状況となっています。

「このまま施設にも忘れ去られてしまうのではないか」「誰とも話ができない日がまた訪れてしまうのではないか」と、不安を口にするAさんにYさんはどう接したらよいのかわからないと悩まれていました。新型コロナウイルスの感染対策を強化することは大切ですが、その一方で居場所を失い、孤立化していく家族がいます。いま人とのつながりが重要である方々に対する支援に目を向けることも長期化するコロナ禍において大切なことではないでしょうか。

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