最近なら着崩し、少し前ならコギャルブーム、さらに昭和をさかのぼると自由化やツッパリブームなど、学校の制服は個性と管理の間を行き来しつつ当時の世相を反映してきました。近年は生徒目線で制服がモデルチェンジする中、重視されているのは「かわいい」という価値観。10年以上にわたって「かわいい」に科学的にアプローチする大阪大学大学院人間科学研究科の入戸野宏教授(実験心理学)と菅公学生服(岡山市)で始まった共同研究「かわいい制服研究室」から見えてくるものは。
近年、制服のトレンドをざっとおさらいします。同社によると、昭和から平成にかけての時期に 高校制服のブレザー化が大きな流れになり、個性的なデザインやDCブランドなど独自性を打ち出す制服が生まれました。平成中期以降は紺のブレザーといった 現在に続く定番スタイルが主流に。さらに令和に入るとブレザー化は中学校にも広がりを見せているとか。一方、「今しか着ることができない服」という価値は今も昔も変わりなく、進学を考える際、制服も学校選択の一要素になっています。
同社はアンケートや女子中高生との座談会を踏まえ、かわいい制服の新たな価値を探る「かわいい制服研究室」を発足(特設サイトで研究結果を2021年2月公開)。そこで見えてきたのは「崩しすぎるとかわいくない」という、入戸野さんも驚くイマドキの価値観でした。
ファッションに興味のある女子中高生の協力を得て、学校指定の「基本の制服」、それをベースにした「校内コーデ」、放課後の学校外で着たいと思う「校外コーデ」を」の3種類を用意。その写真を、ファッション感度の高い女子中高生55人、全国の女子中高生1080人、20代~50代の男女1440人がアンケートで評価しました。どのグループも、「校内コーデ」は「基本の制服」や「校外コーデ」よりも、制服らしさとかわいさのバランスが最も取れたコーデと評価していることが分かりました。「かつては着崩すイコール自分らしさの表現だったが、今は基本を守ってほんの少しだけ個性を加えるのが定番のようです」と入戸野さん。大人の権威が弱くなり反抗の対象ではなくなったこと、子ども自身が周囲の目を気にして保守的になったことが背景にあるのではないかといいます。菅公学生服の担当者に聞きました。
―かつての「着崩し」は大人世代から批判されました。制服の着こなしについて中高生はどう考えているのですか。
「『みんなと一緒』という安心感の一方、『全く一緒じゃつまらない』といった面もあると思います。いつの時代にも少しずつアレンジを加える流行はありました。極端なミニスカートやルーズソックス、腰パンなどは象徴的かもしれません」
―アンケでは、通っている学校の冬制服のかわいさが100点満点で何点かを尋ねています。
「80点以上と回答した人は中学生25.2%、高校生45.4%で、高校生は中学生よりも「今着ている制服は、想像し得るかわいい制服に近い」と評価しています」
―かわいく着るために中高生が意識していることは。
「中高ともに、スカートの丈感、くつ下の丈感、身だしなみに関しての回答が多かったです。高校生になると、『シャツの袖をまくる』『ワンポイントのある靴下にする』『小物で色と追加する』などちょっとしたアレンジをすることでかわいさを表現しているようです」
―『かわいい制服の定義』を尋ねた問いからはどんなことが推察できますか。
「今しか着られない限定感が制服のかわいさであるのは、女子中高生も成人も共通認識のようです。女子中高生たちはルールの範疇で個性 を楽しんでいるのだと思います。一方、成人では個性を消すものとして制服を捉える方もいるようです。時代によって制服の価値観が変化している部分もありますが、今の時代においては、(1)学校という集団の一員であると感じられること、(2)その中で自分らしくいられること、この2つが学生たちの考えるかわいい制服の必要条件です」
―かわいい制服研究の展望を。
「私服にはない制服のかわいさとは何かを探り、それを着た子どもたちの心理面や行動面における効果(特にポジティブな効果)を調べることで新しい価値を見出すことに主眼を置いています。もちろん今後、制服のデザインなどへの反映もあると思いますが、子どもたちが制服を着ることで、より楽しい学校生活になるような研究を進めていきたいと思います」
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