年度末が迫った今年3月30日の早朝、富山湾で珍魚「アカナマダ」が捕獲されました。射水市の沖合に仕掛けていた定置網にかかっていたということです。実はこれ、2019年に富山湾での確認2例目となる個体が31年ぶりに水揚げされて以降、10個体が立て続けに発見され、今回で12例目となりました。
全国でも捕獲例は数十例しかなく、その生体は多くの謎に包まれているというアカナマダ。日本海の、富山湾で次々と発見されているのには、なにか理由があるのでしょうか?実際にアカナマダの標本が保管されている魚津水族館の飼育員・木村知晴さんに話を聞きました。
生態は謎だらけ
―定置網にかかっていたとのことですが、大きさはどのくらいでしたか?
今回捕獲されたのは全長78.4センチ、重さ1.26キロの個体です。
―かなり大きいですね!
過去に魚津水族館に持ち込まれた中には、全長135センチという個体もありました。日本近海では150センチほどの個体も見つかっていますから、アカナマダとすれば中型サイズでしょう。
―そもそも、アカナマダとはどんな魚ですか?
アカマンボウ目のアカナマダ科に属しています。このアカマンボウという魚は食用になっていますので「マンダイ」という名前でスーパーに並んでいることもあります。他にアカマンボウ目に属する魚では、リュウグウノツカイ科のリュウグウノツカイが有名ですね。
―生態はどのくらい明らかになっているのでしょうか?
それがほとんどと言っていいほど分かっておらず、謎だらけです。まず、特徴的な大きなおでこですが、何のためにあのような形になっているのか全く不明です。また、深海200メートルより深いところに生息すると言われていますが、この説にも疑問が残ります。ただ、私が解剖して確認したところでは体の中にいわゆる墨袋があり、常に墨を蓄えていることは確かです。防御のために、自分の意思で肛門から墨を出せると考えています。
―エエッ。しかし、水深が200メートルを超えると光が届かないというイメージがあるのですが、暗闇で墨は有効なのでしょうか?
その点については、私も注目しているところです。これまでの捕獲記録や墨の存在から、表層域と呼ばれる光が届くところでも生活しているのではないかというのが個人的な見解です。でも、深海にも弱い光が入っていることは知られているので、この墨が見える生物がいることも考えられます。
―墨を出す魚がいると初めて知ったのですが、同じように墨を出す深海魚は他にもいるのですか?
アカナマダの親戚にあたるアカナマダ科のテングノタチも肛門から墨を出すことが知られています。しかし、発見例はアカナマダよりもさらに少なく、詳しい生態は分かっていません。
―富山湾だけで12個体が発見されているアカナマダは、もともと日本海に多く生息する魚なのでしょうか?
いえ、本来は太平洋などの暖かい海域が生息地だと思われます。日本海では稚魚、幼魚の発見例がなく、発見されているのは成体ばかりです。また、アメリカやハワイでの発見例も踏まえると、北太平洋に広く分布していると考えられます。
そのお味は?
―食べられたことがあると聞きましたが…。
はい。富山で捕獲されたものをお刺し身で食べたことがあります。かなりしっかりした筋肉質の白身で、私は生でも割と美味しくいただけると感じました。でも、同僚は湯引きの方が美味しかったと言っていましたね。
―珍魚を食べてみるのも研究の一環でよくあることなのですか?
研究の一環というよりは興味本位ですね(笑)。
―どんな味がするのか、興味はわきますよね(笑)。かなり筋肉質とのことですが、深海の水圧が関係しているのでしょうか?
餌を求めて活発に泳ぎ回るため、筋肉が発達しているのではと推測されます。
―それにしても、30年の沈黙を破って、この2~3年ほどの間に日本海で相次いで捕獲されている点については、どのように考えられますか?
よく温暖化の影響なのか?などと聞かれますが、現時点では分かりません。この要因を推察するためには様々な条件を考慮する必要があり、さらに広範囲での研究が必要になります。
―活発に泳ぎ回り、時にお尻から墨を出し、本来の生息地であるはずの太平洋から日本海まで次々とやってくる深海魚…。ますます謎が深まりますね。
はい、アカナマダの生態解明はこれからも続きます。