オオグソクムシという深海生物がひそかなブームを呼んでいる。「ニコニコ超会議2018」(4月28、29日・幕張メッセ)では丸ごと1匹プレスした「オオグソクムシせんべい」が即完売。静岡県焼津市では生きたまま「ふるさと納税」の返礼品にもなっている。
“仕掛け人”は、駿河湾の深海漁船「焼津 長兼丸」の4代目・長谷川久志さんと5代目・一孝さん親子。韓国に輸出するヌタウナギ漁で400メートル前後の深海に全長1メートル弱の筒200本を入れていたところ、オオグソクムシが紛れ込んでいた。深海に生息する甲殻類の一種で、ダンゴムシやフナムシと同じ等脚類の中で体長は最も大きい10センチ前後。見た目から食べるという発想はなく捨てていたが、深海ブームを背景にして状況が変わった。
一孝さんは「5~6年前、父がテレビ局の取材で『食べられますか』と聞かれ、『当たり前だろう』と答えてしまった。言った手前、素揚げにして食べてみたところ、濃厚なエビやカニの味がした。今ではグソクムシを狙って深海に筒を入れています」と、逆転現象の経緯を説明した。
15年には粉末を生地に練り込んだ「焼津 長兼丸 オオグソクムシせんべい」(8枚入り税込1080円)として商品化された。“深海の珍味”として静岡県内の駅やサービスエリアの売店に置かれ、売り上げは年間約10万箱という。関係者は「目指せ!うなぎパイです」と意気込む。
料理用として、東京と横浜の各1店舗に出荷。さっそく都内の獣肉居酒屋で「オオグソクムシの姿揚げ」(税込1980円)を食べた。背中の甲をはがそうとしたが、硬くて断念。内臓を取るため縦に裂いた腹部の切れ目に箸を入れ、少量の白い身をそいだ。最初は何も付けず、続いてレモンと塩で。あっさりしたカニ風味だった。
一方で観賞用としても注目。一孝さんは「カタカナ表記では『ク』を抜かされて汚いイメージを持たれますが、漢字で書くと『具足』。よろいです」と指摘。背中は硬く、よろい模様になっている。
焼津市では15年から「ふるさと納税」の返礼品の一つとして、1万5000円の寄付で7センチ前後のオオグソクムシ2匹を生きたままクール便で送っている(冬限定)。また、4年前に捕獲されたアルビノの白いオオグソクムシは横浜市内の水族館で展示され、ぬいぐるみ「しろまる」としてグッズ化された。
「父は『これからの時代、今まで捨てていたものをいかにお金にするかを考えないと、漁師も生き残れない』と言っていて、まさにいい例だと思います」と一孝さん。漁の邪魔だったムシが主役に-。そんな“下克上”が焼津で起きていた。