最近、台湾情勢で政治的な緊張が高まっている。中国海軍は4月5日、中国産空母「遼寧」など複数の艦艇による台湾周辺海域での軍事演習を、今後定期的に実施していく方針を明らかにした。中国による台湾への挑発的な行動は日々繰り返されている。例えば、台湾の建国記念日に当たる去年10月10日、中国人民解放軍は東南部沿岸の広東省と福建省で台湾侵攻を想定した軍事訓練を実施し、去年12月には中国軍空母「山東」が台湾海峡を北から南に向かって通過した。最近も空母など艦艇6隻が沖縄本島と宮古島の間を通過して西太平洋方面へ進むなど、今後偶発的な衝突が発生して事態が一気に緊迫化する恐れもある。
一方、台湾国防部は3月中旬、中国が台湾へ侵攻する可能性を否定せず、有事に向けて態勢を整えておく重要性を指摘し、台湾軍の兵士や兵器の配備を強化していくことを明らかにした。また、4月7日には台湾の外相にあたる外交部長が「我々にはあらゆる手段を使ってでも台湾を守る責任があり、中国が侵攻してくるのであれば断固として戦う」と発言するなど、台湾側もこれまでになく警戒感を露わにしている。
では、実際、中国は本当に台湾に侵攻してくるのだろうか。これについてはさまざまな見解があるかも知れないが、懸念すべきいくつかの動向見ていきたい。
まず、中国は台湾を核心的利益に位置付けている。核心的利益とは中国が絶対に譲ることのできない利益で、香港やウイグル、チベットがそれに当たる。人権問題を重視するバイデン政権になってからウイグル問題がメディアでも大きく報道されるようになったが、現在ウイグルでは何が起こっているか分からないほど習政権による統制が強化されている。また、香港については一昨年の抗議デモ、去年施行された国家安全維持法などにより、一国二制度から事実上一国一制度に変わり、香港の中国化がいっそう進んでいる。ウイグルや香港での習政権の強権的な姿勢を考えれば、それが台湾へ転用される可能性は十分にある。実際、近年の香港情勢を巡り、次は自分たちだと強い危機感を持つようになった台湾人も多いという。
また、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官は3月9日、今後6年のうちに台湾進攻が起こる可能性があり、この地域における米中の軍事力が接近・逆転し、中国優位の環境が予想より早く到来する恐れがあると指摘した。この発言に驚いた安全保障専門家も少なくないだろうが、これは米国が抱く危機感の表れであり、また日本を含むアジア太平洋地域の同盟国に対する期待と警告のシグナルでもあろう。
バイデン大統領は最近になって国防総省に対し、サウジアラビアなど中東に駐留する米軍部隊の一部撤退を指示したとされる。撤退は数千人規模になるとみられるが、米軍が湾岸地域に配備する地上配備型迎撃ミサイル・パトリオット部隊のうち少なくとも3隊が既に撤収したという。中東撤退の背景には、バイデン大統領が最大の競争相手と位置付ける中国を意識し、軍事的プレゼンスをアジア太平洋地域に移したい狙いがあるのは間違いないだろう。3月のデービッドソン司令官の発言とこのバイデン大統領の動きは、中国を警戒する一連の動きである。
最近の台湾情勢とこれまでが大きく異なるのは、当事者たちの行動や発言がより脅威を煽り、具体的なものになっている点である。台湾周辺での中国空母の航行、台湾軍の軍備強化、6年以内という米軍司令官の発言など、誰もが懸念してきたシナリオがより現実的なものになってきており、中国が米国の台湾へのコミットメントは大したものではないなどと感じ始めれば、よりその可能性は増すことだろう。台湾有事は日本領土の安全保障と不可分な問題である。今後の動向が懸念される。