重要人物の中でただ一人、会わなかった人物がいる。ユーロニモスと意気投合をするも、最後は最悪の結末を選択するヴァーグ・ヴァイカーネスだ。一人バンド・BURZUMとして活動する傍ら、危険思想の持ち主として政府から今なお注視されている穏やかならぬ人物でもある。劇中では偏った信念に忠実過ぎるがゆえに、日本でいうところの“中二病”のように描かれる箇所もあり、相手が相手だけにちょっとヒヤヒヤする。
アカーランド監督は「彼とは一切コンタクトを取っていません。それは彼に会っても今回の映画化自体を否定するとわかり切っているからです。そんな人の意見をわざわざ聞く必要はありませんから」と打ち明ける。
アカーランド監督は、MVの監督としてグラミー賞を受賞した経験もある。それだけに初期MAYHEMのライブ場面の臨場感と再現率は高く、ジャック・キルマー扮する顔に白塗りのコープスペイントを施し、自傷しながら歌うデッドの不気味なまでのカリスマ性はかなりのもの。作品全体がたったの18日間で撮影されたとは思えない高いクオリティを維持しているのも、アカーランド監督の実力の賜物だ。
ライブシーンで象徴的に流れるバンドの代表曲『FREEZING MOON』も必聴。「バンドにとって、そしてノルウェイジャン・ブラックメタルの中でもアンセム的偉大な楽曲です。当時の雰囲気が出るようにプロのミュージシャンを起用した、映画オリジナルのアレンジバージョンを使用しています。いかに本物のように見せるかにこだわり、音楽面だけでなく、ファッション面、劇中に登場するレコードやポスターなどのアイテムにも注目してほしいです。ブラックメタルファンは熱狂的なので、愛するがゆえに非常に厳しくチェックをする。だからこそ彼らに否定されないよう、細部にまで気を配りました」。ファンを念頭に作っているからこそのリアリティがある。