「ごめんね、お金がいるよね。でも死んでしまうと思ったから」冷え切った子猫を保護、必死で救った母子

渡辺 陽 渡辺 陽

まろんちゃん(オス・14歳)は、子猫の時に飢えと寒さで衰弱した状態でいたところ、大分県に住むゆうみんさんの長女が発見。ゆうみんさんと長女が保護した。母子家庭で生活は楽ではなかったが、ゆうみんさんは子猫を放っておくことができなかった。

骨と皮だけになった子猫

2007年11月25日、大分県に住むゆうみんさんが仕事から帰ると、当時中学2年生だった長女が、「お母さん、言ってもいい?子猫のことなんだけど」と話を切り出した。

「下校する時は、いつも古いアパートと空き地の間の狭い道を通るらしいのですが、その空き地の隅に、昨日も今日もじっとして動かない子猫がいるというのです。北風が吹く寒い日が続くなか、2日間もじっとしているのは具合が悪いに違いないと思いました。特にその日は午後から曇り空で、今にも雨が降り出しそうな空模様。心配でいてもたってもいられず、猫缶を準備して長女に道案内させて車で現地に向かいました」

空き地の隅にじっと座ったままの子猫がいた。白い毛に覆われ、手足と顔がこげ茶色のシャムミックス。腰をかがめてそっと近づいたが動く気配はなかった。怖がらせないように「にゃあちゃん、どうしたの?」と左手をぐーの形にして、下からそっとあごのところに持っていったが、それでも動かなかった。ゆうみんさんは右手を伸ばして子猫をつかみ、屈んだまま抱き上げて、ひざに置いたバスタオルで包み車の中へ。骨と皮だけになるほど痩せこけていて羽のように軽く、顔や体の皮膚がゴツゴツしていた。皮膚病にもかかっていた。冷え切り、鳴く元気もなく、やっと息をしているような状態で、持って行った猫缶にも興味を示さない。指の先ですくい口元に持っていったが、食べようともしなかった。

動物病院を必死で探す

時間は18時近く、近所の動物病院は診療終了していた。当時は、今のようにスマホで検索することができなかったので、ゆうみんさんは自宅に戻り、職業別電話帳で、動物病院を探し、自宅から近い順に次々と電話した。しかし、どの病院も診療時間が終わっていて、留守番電話になっていたり、電話に出てくれたとしても、診療は終わっているからと新規の受付を断られた。

今日じゅうに診てもらわなければ、今夜一晩この状態では命に関わる。ゆうみんさんは祈るような想いで、自宅から遠くでも構わないと範囲を広げて電話をかけ続けた。やっと自宅から8キロのところにある動物病院に繋がり、「診療時間はすでに終わっているけれど、今、急患のイノシシに傷つけられた猟犬の手術をしているので、終わり次第で良ければ診察します」と言ってくれた。

長女にバスタオルでくるんだ子猫を抱き抱えさせ、ゆうみんさんは動物病院に向かった。ペットキャリーに入れることも考えたが、直接抱き抱えて温めた方がいいような気がしたという。

推定月齢2カ月の男の子。極度の栄養失調と脱水で、何日も飲まず食わずで過ごしていたようだった。疥癬にも感染していた。

疥癬は治療すれば綺麗な毛に生え変わるから、心配ないと言われた。脱水症状を改善し、栄養をつけるため、点滴による水分と栄養分の補液が必要で、入院することになった。当時、ゆうみんさん宅は母子家庭で経済的に余裕があるわけではなかった。

長女は帰りの車の中で、「お母さん、ごめんね。お金がいるよね。子猫のことをお母さんに言ったら、きっとお母さんは助けに行くと思ったから最初に見つけた時は言えなかった。でも、昨日も、今日も、じっとそこにいる子猫を見ていたら、そのままそこで死んでしまうと思ったから」と泣き出した。ゆうみんさんは、「謝らなくてもいいよ。お母さんだってそんな子猫に出会ったら、見て見ぬふりはできない。お金はやりくりして何とかするよ。夕ご飯のおかずが減るかもしれないけどね」と笑い話に変えて帰宅した。夜になり、雨が降り出したので、ゆうみんさんは保護できで良かったと思った。

私が世話をするから

翌日、ゆうみんさんが動物病院に立ち寄ってから帰宅すると、長女が自分の部屋でケージを組み立てていた。退院したら、自分が世話をすると言う。ゆうみんさんは、「お世話は大変だよ。皮膚がポロポロ剥がれ落ちるから、自分にも感染しないように、子猫を触ったら、手をよく洗って、ケージの中にペットシート敷いて、汚れたらすぐに取り替えたりしないといけないし、トイレの掃除も、排泄したら早めに替えてあげないといけないんだよ」と説明した。しかし、長女は、「私が見つけた子猫だから、世話をするのはあたりまえ。それに、私の方がお母さんより早く家に帰るから、私の部屋にいる方がいいと思う。名前ももう決めてあるよ。手足と顔が茶色い栗の色だからマロンちゃん」と言うので、退院後は娘に託すことにした。

退院した日と保護した日を合わせても3回しか会っていないのに人懐こく、顔を手に擦り付けてきた。マロンちゃんは車の中で少し不安がって鳴いていたが、「大丈夫だよ。お家に帰るからね。もう、お外で怖い思いをしなくていいよ。お腹いっぱいご飯も食べれるからね」と話しかけながら、帰った。

約1カ月、疥癬に感染してゴワゴワしていた皮膚が毛と一緒に剥がれ落ち、新しい毛に生え変わった。

マロンちゃんは、その後、大きな病気もせず、風邪を引くこともなく、すくすくと成長した。白かった身体も全体的に薄い茶色になり、手足と顔はこげ茶色になった。本当に見るからに、大きな栗(マロン)のようだという。性格は温厚、一緒に暮らす猫とも仲良しだ。なぜかシャンプーの香りが大好きで、シャンプー後の髪をくんくん匂って、ぐるぐると喉を鳴らす。

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