監督やキャスト総出の街頭チラシ配りや船を借り切った海上パーティー、ライブハウスでのイベントなど、常軌を逸した熱量の宣伝活動で話題を集め、神戸の元町映画館では1週間連続満席という華々しい記録を打ち立てた映画「みぽりん」(2019年)の松本大樹監督の新作「コケシ・セレナーデ」が12月11日から、OSシネマズ神戸ハーバーランドで宇宙最速公開される。……なぜコケシ?
なぜコケシ?コロナ禍で生まれた謎の映画
主演は「みぽりん」に主題歌を提供したミュージシャンの片山大輔さん。松本監督は次回作として、片山さんを主役に「スクール・オブ・ロック」(2003年)のような音楽コメディ映画を作る準備を進めていたが、コロナ禍で頓挫。次善の策として急遽企画したのが、家の中という限られた舞台で繰り広げられる物語だったという。……なぜコケシ?
「企画がポシャり、『次どうしようか』という話をしていたときに、『コケシなら実家にたくさんある』と片山さんからサジェスチョンがあったんです。それなら『チャイルド・プレイ』(1988年)みたいな人形を使ったホラーの“コケシ版”を作れるのではないかと思いつきました」(松本監督)
ところがコケシの所有者である片山さんの母から「映画で使うのは構わないが、怖いのはダメ」とNGを突きつけられてしまう。そうして生まれたのが、コロナ禍で“巣ごもり”生活を送る夫婦のちょっと不思議な物語。外に出られないストレスからか、次々とコケシを買い集める妻(佐藤萌々花)と、戸惑う夫(片山)。コケシとの奇妙な共同生活は、やがて思いがけない結末にたどり着く――。
前代未聞の“給付金映画”
「みぽりん」で抱えた莫大な借金もおそらくまだ返せていないはず(怖くて聞けない)だが、松本監督は「1年に1本きちんと長編映画を作る」という自分に課した目標を完遂すべく、「コケシ・セレナーデ」の制作費にはコロナ禍の持続化給付金や家賃支援給付金を充てた。ちなみに松本監督は、特別定額給付金(10万円)も緊急事態宣言期間中にリモートで作った短編映画「はるかのとびら」に全額注ぎ込んでいる。
「このままでは2020年、本当に何もいいことがないまま終わっちゃうじゃないですか。『みぽりん』も各地の上映予定が白紙になり、最後の最後で映画の神様に見放されたという思いを味わいました。正直、自主映画なんて公開しても儲からないし、酷評されるし、ろくなことはありません。でもやるんだよ!しんどくても続けるんだよ!そんな気持ちで臨みました」
こう見えてコロナ禍に向き合う真摯なストーリー
コロナ禍の時勢が色濃く反映された本作には、世間を賑わせた給付金や“アベノマスク”も登場。感染防止のビニールシート越しに展開される意表を突くシーンなどのコメディ要素も盛り込みながら、片山さんのオリジナル楽曲と片山母所有のコケシをフル活用した、コロナ禍の苦しさや喪失に向き合う真摯な物語を紡ぎ上げた。
演技は初めてだったという片山さんは「曲作りに対する松本監督のプレッシャーはえげつなかったし、一発撮りの演奏シーンの緊張感もすごかったけど、コロナ禍でもこうして作品を作れるんだと示すことができた。楽しかったですよ」と振り返る。
11日からOSシネマズ神戸ハーバーランド、2021年1月30日から大阪のシネ・ヌーヴォ、順次、京都みなみ会館でも公開予定。さらに、舞台化のプロジェクトも進行中という。
「コケシ・セレナーデ」https://kokeshiserenade.com/