逮捕相次ぐ「持続化給付金」詐欺…ノウハウは振り込め詐欺と同じ、一般人を犯罪の手足に使うワナ

多田 文明 多田 文明

 嘘の書類を提出して、持続化給付金をだまし取ったとして、学生や少女らの若者が続々に逮捕されています。このニュースに憤りを覚える人は多いのではないでしょうか。コロナ禍のなかで、経営不振に陥り、本当に苦しんでいる人たちがたくさんいます。そうした人たちへの給付金を、平然とお小遣い稼ぎの感覚でだまし取る。この詐欺の背景には何があるのでしょうか。

 コロナ禍のもと、法人は200万円、個人事業主は100万円の持続化給付金の支給が決定しました。迅速に給付が受けられるように、手続きはネットから行えます。給付を受けるためには、昨年度の確定申告書や所得税青色申告決算書の控え、本年度の売り上げが減った月の売り上げ台帳、運転免許証などの身分証明証などが必要になります。

 確定申告の期限が3月15日より延長されることになると、ワルたちは暗躍し始めました。経営実態のない休眠会社を買い取り、法人向けの持続化給付金の申請をし始めました。そして実際に給付金を受けとっています。当時、この情報を聞き、時流にのる詐欺の機敏さに改めて驚きました。しかし、これですと買い取れる会社の数に限りがあります。そこで、もっと効率的に金をだまし取ろうしてきた手口が、今回の学生や給与所得者らを巻き込んだ持続化給付金詐欺だといえるでしょう。

 国民生活センターからも、先月、不正受給の申請を持ち掛ける事案が横行しているとして注意が呼びかけられました。

 本来、事業を行っていない学生や給与所得者には受給資格はありません。しかし知人を通じて「代行業者を通じて、国に持続化給付金の申請をすれば、受け取れる」といった内容が、メッセージアプリなどで送られてきています。

 その誘いにのると、前年度、個人事業主として収入があったように見せかけた嘘の確定申告を税務署に提出させ、本年度に売り上げがほとんどなかったという嘘の売上台帳をもとに申請をネットで行わせます。すると、本人の口座に持続化給付金の100万円が振り込まれます。そして、振り込まれたお金の6割~8割を代行業者に払い、残りのお金を本人が手にするかたちになります。当然、事業経験のない素人にはできないことなので、その種の手続きに慣れた人物が逐一指示してきます。

 ここには、振り込め詐欺などにみられる組織的詐欺の構図がみられます。

 まず詐欺への誘い方です。振り込め詐欺では、だましたお金を家に取りにいく「受け子」やATMからお金を引き出す「出し子」は、SNSを通じて集められます。今回の給付金詐欺でも、SNSで知人が知人を誘う形で、ネズミ算式に不正受給の勧誘が広がっていき、犯行をする人が増えていきました。今回、不正受給した人のなかには「給付金が受け取れるので、申請しないか」とだけいわれて、これが持続化給付金とはよく理解せずに、申請したケースもみられます。

 今、不正受給者は続々と逮捕されています。考えてみれば、これは当たり前でしょう。先月から不正受給の勧誘が横行している実態はすでに明らかになっていますので、正規の確定申告の期限を過ぎて、昨年度の確定申告を初めて提出した人は、すべて調べられるわけですから。

 しかし詐欺を指示する側では、この逮捕者続出は想定済だと考えています。それは、詐欺の絵図を書いた人物たちからみれば、不正受給した彼らは逮捕されてもよい、捨て駒の存在だからです。これはまさに、特殊詐欺で使われる受け子と同じで、彼らは警察に捕まってもよい、トカゲのしっぽ切りの存在なのです。

 今後は、こうした持続化給付金詐欺の手足になった人が、業者へ振り込んだ金の行方がつかめるかがカギになるでしょう。というのも、振り込め詐欺では、受け子や、詐欺の実行犯を勧誘するリクルート役、電話をかける「かけ子」まで捕まりますが、その上まではたどれず、詐取した金の行方もわからなくなることが多いからです。

 不正受給に関わった人間や、申請を指示した代行業者くらいまでは逮捕されると思いますが、絵図を描いた上の人間までたどりつけるのか。また、不正受給者が代行業者へ振り込んだ金の流れをどこまでたどれるのか。解明に注目しています。

 今、詐欺の発覚を恐れて、弁済する人も多く出てきています。厳しいことをいうようですが、弁済したから済むという問題ではありません。税金をだまし取った事実は消えません。なぜ安易に犯行に加わってしまったのか。税金に対する意識の欠如を含め、大いに反省しなければならない点は多くあります。

 今、自分の子どもが犯行に手を染めていた事実を知り、青ざめている親も多いことでしょう。もし彼らが振り込め詐欺のニュースを人ごととせず、身近な問題と捉えていたら、犯行は防げたはずだと思うと、残念に思えてならないのです。

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