先月11月は株式市場にとって記録的な1カ月になったようだ。月末終値は2万6433円で、1カ月の上げ幅が3100円を上回った。月間の上げ幅が3000円を超えるのは21世紀に入ってからは見当たらないし、バブル経済崩壊後の急落局面で、相場がリバウンドした1990年5月(3546円上昇)や、過去最大だった同年11月(4210円上昇)以来の大きな上げ幅になるとみられる。それほどの大きな上昇になったのは、やはり海外投資家(外国人投資家)の買いが入ったというのが大きい。
日本経済の凋落(ちょうらく)が指摘されて久しいが、株式市場では依然として世界3大市場の一角を占めるのが東京市場だ。世界の株式に投資する米国の年金基金や投資信託など、いわゆる「グローバルインベスター」が資金運用の指標にするMSCIワールド・インデックスでは、各国の時価総額などを勘案し、誰でも株式が売買しやすい制度や取引高のある23カ国の株式を組み入れている。構成比は米国株が約66%と突出しているとはいえ、日本株は約8%で堂々の2位だ。3位の英国は約4%ということで、ニューヨーク、東京、ロンドンが世界3大株式市場とされている。
というわけで、東京市場での取引はだいたい6~7割が海外の投資家で占めている。世界中から投資のための資金が集まってくるわけだから当然、そうなるというわけだ。たまに「外国人に日本株を牛耳られるとは情けない」といった話をする人がいるが話は逆で、それほどまでに日本の株式市場が注目されているというほうが実情には合っている。足元では日本航空、ANAホールディングスと国内の航空大手2社が相次いで巨額の増資に踏み切った。同じ業種が同じような理由で巨額の増資を立て続けに実施すると、投資家側の資金が枯渇しないか心配になるが、それが可能なのも東京に世界中からの資金が集まっているメリットといえる。
話はそれたが、つまり日本株が上昇するかどうかは、海外からの資金流入が増えるかどうかにかかっているというわけだ。そこで、東京証券取引所が毎週発表している「投資部門別売買状況」という統計資料を見てみよう。これは東京証券取引所が証券会社49社に「どんな投資家から注文を受けたか」と聞き取ってまとめたものだ。これによると最新統計の11月第3週(16~20日)に、海外投資家は現物株と株先物の合計で5971億円を買い越した。つまり日本株を売った金額より買った金額が約6000億円も多かった。
海外投資家の大幅買い越しは、この週だけに限ったことではなかった。海外投資家による日本株の買い越しは3週連続だ。米大統領選を投開票した11月3日を含む週から3週連続で買いを入れた形だ。海外投資家はこの3週間で、現物と先物を合計すると、およそ2兆7500億円といった巨額の買いを入れた勘定になる。この間、日経平均株価は2万2000円台から2万6000円の節目まで、一気に駆け上がった。これだけ短期間に買いが集中すれば、そりゃあそのくらいは上がりそうだ、という印象だろう。
海外投資家による買いの直接的な理由は、米大統領選を無事に通過しことによる安心感が大きいとみられる。なにしろ世界の株式の66%を占める巨大市場で波乱が起きなかったのだから、防衛的に保有していた現金を、安心して株に変えて値上がりをねらっていこう、という姿勢だ。すでに米大統領選の投開票が始まる前から、株式市場を支援するトランプ大統領が勝てば買い、巨額の景気対策を計画しているバイデン候補が買っても買い、という雰囲気になっていたので、11月3日は結果によらず買いのタイミングになった面もあるようだ。
それに海外勢が日本株に買いを入れる材料も、実はそろっていた。それは「米国株が先に上昇すること」「日本企業に変化が訪れそうなこと」の2点だ。21世紀に入ってからの大相場(おおそうば=大きな上昇を伴う相場の局面)の2回を振り返ってみよう。1つは2005年8月の解散総選挙から翌年1月のライブドアショックまで続く「郵政解散相場」。それと12年12月から翌年5月まで続いた「アベノミクス相場」だ。
05年の郵政解散相場のとき、米国株は01年のITバブル崩壊から立ち直り、ダウ工業株30種平均は再び1万ドルの節目を上回って推移していた。これに対してITバブルの頃に2万円近辺まであった日経平均は、05年に入ってもまだ1万2000円を明確に上回ることができていなかった。アベノミクス相場の時も同様だ、08年のリーマンショックから立ち直ってダウ平均が1万3000ドル台と過去最高値をうかがう勢いだったのに対し、日経平均は1万円割れが常態化。いずれも日本株は、米国株に対して出遅れていた。
郵政解散相場のときにテーマになったのは「規制改革」だった。海外のビジネスマンにとっては理解しがたい日本の縦割り行政に基づく規制がなくなれば、日本の企業はもっと活性化するはず、というストーリが海外投資家に描きやすかった。アベノミクス相場の時も、株式市場に対して理解が乏しい政権に終止符が打たれ、株式相場と親和性の高い政策を掲げる新首相の「改革」に対して期待が高まった。さらにその後の「異次元緩和」で、その期待感は長続きすることになった。
さて今回の状況だが、まずダウ平均と日経平均を比べてみよう。3月の「コロナショック」で付けた底値からの値上がり率は、ともに50~60%といった具合。ダウ平均の上昇に、11月の急上昇で日経平均が追いついたようにも見える。ただ、ダウ平均はさらに上値を追う勢いだ。さらにハイテク株のウエートが高い米国のナスダック総合株価指数や、主要500社の株価指数であるS&P500種株価指数がともに約7割上昇したのを見ると、依然として日本株の出遅れ感は大きいと言えそうだ。
加えてデジタル庁を設置するという政府の動きがある。いまだにファクシミリが健在で、もう何年も生産性の低さが指摘され続けてきた日本企業は、役所の「改革」によって、ようやく変わることできるのではないか……。なんとも郵政解散相場のときと同じような構図が、いまの日本株が置かれた状況といえる。さらに、強力な金融緩和で日米欧の投資家とも資金は潤沢という、これまた強力な追い風もある。
繰り返しになるが、日本は世界第2位の大きな株式市場。つまり世界の株式投資家にしてみれば、米国株に対する懸念が後退すると、次に投資を考える投資先が日本株というわけだ。その日本株に、いま「買い」のフラグが立っている。もし海外勢が12月も同じ勢いで日本株に買いを入れるなら、つまり11月と同じように大幅上昇するなら--。年末年始にも日経平均が3万円の大台をとらえるという計算になる。