発売開始以来70年近くになる、三原駅の主とも言えるロングセラー駅弁。タコの足の数にちなんだのか、八角形の容器を採用しているのが、ふたを取る前から遊び心があって面白い。私が最初に食べた40年近く前、呉線の普通列車に揺られ、美しい瀬戸内の多島美を眺めながら、おいしくいただいたのを思い出した。窓を開けて駅弁を食べながら風を感じる鈍行の旅こそが、最高のシチュエーションだと初めて実感したのを、この「元祖珍辨たこめし」を食べるたびに確認している。
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メインを張るのは、中まで味が染み込んだタコのやわらか煮だ。舌や歯で「ここは吸盤だな」などと確かめながらかみしめると、実に味わい深く、年配の方でも気にせず食べられるほどのやわらか仕上げになっている。タコの細切れと一緒に出汁(だし)醤油で炊いたご飯との相性もバッチリで、いくらでも食べられそうなほどうまい。4粒という多くも少なくもないちょうどの量が、他のおかずを引き立てている。
刻んだ厚めの卵焼きやタケノコ煮、ウズラの卵、煮エビ、椎茸煮などもしっかり入り、単品で彩りよく、分かりやすい味で脇を固めている。
しば漬けがポリポリと歯応えがよく、いい箸休めだ。
1030円。山陽本線・三原駅「浜吉」☎0848・62・2121