「11月6日午後9時ごろの空ですが、この六つの光はなんでしょうか」。京都新聞社の双方向型報道「読者に応える」のLINEに京都市山科区の女性から写真とともに情報が寄せられた。確かに、京都市街を覆う夜空に謎の光点が浮かんでいる。光の正体は何なのか?UFOか、はたまた何かの天文現象か。写真を手がかりに調査した。
投稿した学校支援員の坂元美奈さん(48)は「変な光が見えると友人が知らせてくれたので、外に出て写真を撮った。当初は月かなと思った。しかし雲は動くのに、光は動かないし、点滅もしない。不思議だと思った」と振り返る。
京都地方気象台は把握しているのだろうか。尋ねてみたが、「11月6日の夜、空に点のような光ですか…。市民からの問い合わせもありませんでした」と素っ気ない反応が返ってきた。
実は同じ夜、京都市中京区の京都新聞社でも、ベテラン写真記者が謎の光を目撃していた。奥村清人カメラマンは「知り合いから連絡を受けて、屋上に出ると光が点々と浮かんでいた。ひょっとしてUFOかもしれないと思いシャッターを切った」と振り返る。
奥村カメラマンが撮影した写真を見ると、南東方向の地上から光の筋が伸び、雲にあたっているのが分かった。しかし、手前にある地上17階建てのホテルの陰になり、光源がどこかまでは特定できない。地図でその付近を調べると、東山区の青蓮院や知恩院、円山公園がある辺りだった。
ふと思い当たったのが、知恩院で行われているライトアップだった。手元のスマホで開催期間を調べると、11月7日初日で、撮影された日に近い。どうも関連がありそうだ。
知恩院に奥村カメラマンの写真を持って行き、ライトアップを担当する僧侶に見せた。すると、「この光はうちですね」。僧侶によると、知恩院は毎晩、投光器6基を使って夜空を照らし出しているという。投光器は7日から29日まで行っている「知恩院 秋のライトアップ」に合わせ、業者に依頼して設置したのだそうだ。
「装置は御影堂の裏にありますよ」。僧侶に案内され、境内で最も大きなお堂「御影堂」(国宝)北側に行くと、直径約30センチの投光器6基が1列に並んでいた。20万ルクス以上の明るさを持つLED照明を使った投光器で、毎日午後5時半から午後9時半まで夜空を照らしているという。
写真が撮影された6日に何があったか聞くと、「試験点灯を実施していた」とのこと。つじつまは合う。
知恩院おてつぎ運動本部の九鬼昌司課長は、投光器6基によって夜空を照らす6本の光は「南無阿弥陀仏」の6字を示すといい、宗教的意味を込めていると解説する。「今年のライトアップのテーマは『祈り』。知恩院がライトアップをしていると知ってもらい、ぜひお参りして静かに祈ってもらいたい。そういう思いを込めて投光器から光を放っています」と説明する。
投稿者の坂元さんに光の正体を報告すると、「6日夜に撮影した写真をフェイスブックに上げると、友人も東山区辺りのお寺の光ではないかと言っていました。やはりそうでしたか」と納得した様子。「でも良かったです。光を見て友人たちと『私は光が四つ見えた』『光が本当にUFOなら連れ去られるかも』などと言い合って盛り上がることができましたので」と楽しげに語った。