コロナ禍で飲食店が厳しい状況に立たされている中、立ち食いそば店も例外ではない。24時間営業で首都圏を中心に約130店を展開する大手チェーン「名代 富士そば」はその要因として、リモートワークの普及でビジネス層の利用が減ったことを挙げ、ターゲットを変えた打開策として、自宅で筋肉を鍛える人向けの筋トレ・サポートという機能性を付加した新商品「筋肉もりもりそば」(税込680円)を11月から都内の渋谷明治通り店と池袋東口店の2店舗限定で始めた。実際に食べ、商品に託したスタッフの思いなどを聞いた。
富士そばの売り上げは2018年に105億円、19年に107億円と成長を続けてきたが、コロナ禍による外出自粛や企業のテレワーク導入などで、利用客の約7割を占めていたという男性ビジネスマンが激減。同チェーンを運営するダイタンホールディングス株式会社によると、今年の売り上げは3月が前年同月比8割、 4月と5月は24時間営業を短縮したことも大きく前年同月比約4割。 6月に同6割超えと盛り返し、9月は72・11%まで回復したが、コロナ禍の影響は大きかった。
そこで、同社が注目したのは「筋トレをする人」だった。森永製菓の調査で「自宅で行う筋トレや運動の頻度は全体の8割以上、 特に40代男性、20代と30代の女性は9割以上増加」という「おうち筋トレブーム」が起きているとするデータに注目。一方、外出自粛等により、成人の約6割、中でも50代女性の7割以上に筋力低下の現象が起きていることも分かったという。
その上で、同社はアスリートフードマイスターの今野善久氏と共に新商品「筋肉もりもりそば」を開発。筋肉量の増加にはたんぱく質と共に、そばに含まれる成分「ルチン」という抗酸化物質も合わせて摂取する必要性に着目したメニューを編み出した。
渋谷明治通り店で食べた。一際、目についた具は「ヤゲン軟骨の素揚げ」。コリコリとした鶏の胸骨の先端部だ。タンパク質が豊富で、ササミ以上に低脂質という。硬いので、そしゃく数を上げて顎のトレーニングにもなる。そこへ抗酸化作用のある食材として、ほうれん草、大根おろし、すりごまをプラス。栄養素の働きを損なわないよう、つゆはあえて「ぬるい温度」で提供。トータル449キロカロリーと低カロリーだ。
食券をカウンターに持って行くと「ぬるめのおそばになりますがよろしいでしょうか」とスタッフに伝えられた。この「ぬるさ」もポイントになる。
同社開発企画広報担当の工藤寛顕氏は当サイトの取材に「新しい試みとして提供する商品で『ぬるい温度』ということをしっかりと伝えたいと思っております。知らないで買ってしまったお客様にはぬるいという衝撃の事実を伝えて、理解して下さった上で食べていただきたいです」と説明した。
その温度について、工藤氏は「通常の温かいそばは75-80度でご提供することを心掛けておりますが、『筋肉もりもりそば』は40度以下。40度を超えると大根おろしの消化作用の成分の働きが低下するそうです」と補足。作り方は「温めて湯切りをしたそばに『冷たいめんつゆ』をかけて、盛り付けします」と明かした。つゆの量は、入浴に例えると肩下くらいまで。大根おろしはつゆに溶けることなく、麺の頭部分にしっかり載っている。
販売2店舗が渋谷と池袋という立地については「マッスル愛好家が多いらしい」という情報によるという。渋谷明治通り店の池田晃久店長によると、発売初日の6日は39食で、土日の7-8日は24-23食、週明け9日の朝番は12食で「コロナ禍を踏まえると良いと感じています」。ぬるいつゆについては「熱くして欲しいとの要望は聞いていません。『冷たくはできるの?』というお客様はいらっしゃいました」と振り返った。
コロナ禍でそば店に新しい動きが生まれている。例えば、1人で来店する女性客が増えたという。同社では「これまでグループで食事をしていた層が、1人でサッと食べに来店するようになった」と分析。「筋肉もりもりそば」の今後について、工藤氏は「好評であれば販売店は自ずと増えるのが富士そばでございます。大小に関わらず可能性を広げて参ります」と意欲的だ。
噛めば噛むほど旨味があふれるヤゲン軟骨を、さっぱり中和してくれる大根おろし。そのコンビネーションを成立させる環境は「ぬるさ」にあった。「お酒はぬるめの燗(かん)がいい〜♫」ならぬ、「そばはぬるめのつゆがいい〜♪」。そんな気分で完食した。