旅情誘う駅そば無念の閉店 利用者減にコロナが追いうち、惜しむ声続々

浅井 佳穂 浅井 佳穂

 立ち上る湯気、鼻をくすぐるだしの香り。旅行の途中、思わず一杯食べたくなるのが駅にある立ち食いそば「駅そば」です。そんな駅そばのうち、滋賀県の在来線の駅にある1軒が今春、閉店しました。数年前から利用者が減っていたことに加え、新型コロナウイルス感染拡大が決定打となったそうです。利用者からは閉店を惜しむ声が寄せられているといいます。

 滋賀県米原市の米原駅。東海道新幹線に加え、名古屋や京都を結ぶ東海道線、福井や金沢方面への北陸線、さらにはローカル線の近江鉄道も乗り入れる比較的規模の大きな駅です。その在来線5番ホームに、駅前に本社を構える「井筒屋」が経営する立ち食いそば店がありました。

 井筒屋は、1889(明治22)年の東海道線全通時に米原駅で駅弁を売り始めたという老舗です。後に駅そばの営業も開始しました。井筒屋の駅そばはかつては在来線の各ホームに1カ所ずつあったといいます。しかし徐々に姿を消し、最後まで残ったのが名古屋発金沢行き特急電車「しらさぎ」が発着する5番ホームの駅そばでした。

 5番ホームの駅そばは、金沢行きの特急のほか、SL「北びわこ号」そして「青春18きっぷ」の利用者たちに愛されていました。店先には、さまざまな駅弁のほか、関西風のだしのそばやうどんがメニューに並び、1日に約300食売り上げたこともあったと言います。

 ところが、2015年3月の北陸新幹線高崎―金沢駅間の開業で、米原経由で北陸へ向かう乗客が減り、駅そばの売り上げは減少。さらに追い打ちを掛けたのが新型コロナウイルスの感染拡大でした。5番ホームの店は、4月10日から休業し、そのまま閉店となりました。

 閉店を知った利用者からは「ここでそばを食べるのが楽しみだった。なくなってさみしい」との声が寄せられているといいます。ツイッター上でも「井筒屋の駅そばが閉鎖したのは痛いなぁ」「旅の途中の楽しみが減った」などの声が上がっています。

 しかし、米原の駅そばは完全になくなったわけではありません。東海道新幹線の上りホームには井筒屋による駅そばが営業しており、今も味わうことができます。

 それだけではありません。井筒屋は8月下旬、米原駅西口から徒歩2分の場所にある本社内に、新たなイートインスペースをオープンさせました。その名も「キッチン井筒屋」です。かけうどん(350円)やかけそば(同)、きつねうどん(400円)など11品目を味わうことができます。

 井筒屋の宮川亜古社長(58)は「キッチン井筒屋からは米原駅を行き来する新幹線が見られます。列車を見て風情を楽しみながら、そばやうどんを食べてもらえたら」と話します。

 新幹線ホームの駅そばは年中無休で午前9時半から午後6時半まで、キッチン井筒屋も年中無休で午前9時半から午後2時半までの麺類の提供をしています。

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