Vリーグのヴィクトリーナ姫路が今季から初導入した「スコート」タイプの新ユニホームが話題になっている。スコートに入ったスリットがアクセントだが、そこから記者は当地の名物「姫路おでん」を連想した。関西方面で「関東煮(だき)」と呼ばれるおでんに「生姜(しょうが)醤油」をかけることで全国各地のおでんとの差別化がされるに至った、少しの違いの「アクセント」という部分で…。都内で姫路スタイルのおでんを出す店を訪ね、姫路出身の店主に話を聞いた。
姫路おでん普及委員会の公式サイトでは「生姜醤油で食べるおでんはすべて『姫路おでん』です」と定義し、起源について「おでんに生姜醤油をかけるという、姫路を中心に加古川~相生あたりまでの、ごく限られた地域の食べ方を、2006年6月に姫路の食でまちおこしを考えるグループが『姫路おでん』と命名しました」と解説。同普及会によると「少なくとも昭和10年頃には、生姜醤油をかけていたことが分かってきました」とのこと。地元では一般的な食べ方だったため、それまでは特に名前はなかったという。つまり「姫路おでん」というブランド自体は誕生からまだ14年しかたっていない。
東京で姫路のおでんを食べた。池袋駅近くに店を構える「地酒と手料理 樂醉くばら」店長の久原公雄さん(61)は姫路に本社のある酒造メーカーの営業担当として地元と東京を往復する生活を経て、4年前に独立して開店。日本酒を楽しむ店のメニューに子どもの頃から親しんだ姫路スタイルのおでんを取り入れた。
食べ方に決まりはないが、一般的に、生姜醤油を具の上から直接かけるか、小皿に入れた生姜醤油につけて食べるかで、同店は前者のスタイル。大根、ゆで卵、ちくわ、豆腐に、関西風の定番・牛すじ肉の計5品を注文。出汁を入れた器に盛り、その上から小さなスプーンで生姜醤油を垂らした。やや甘みのあるおでんに生姜醤油をかけることでパンチが加わり、濃厚かつ生姜特有のさっぱりした味になる。味に変化が出て飽きもこない。
久原さんは「食べ始めた頃からおでんに生姜醤油をかけるのが普通だったので、全国的にそうだと思っていました。姫路の人はだいたい子どもの頃から当たり前のように食べてきたと思います。昭和の初め頃、姫路の方(白浜町)は生姜の産地で、関東炊きは甘いような味だったので、それにアクセントとして生姜醤油をかけたみたいですね」と解説した。
東京でもその味は好評だという。久原さんは「うちで初めて食べられた東京の方も『生姜醤油をかけないと物足りない』と言われるようになりました。お客さんには『コンビニのおでんに家で作った生姜醤油をかけたら姫路おでんですよ』と言っています。あと、他の地域と違うのは牛すじ肉をたくさん入れて出汁が出ていること。日本酒に合うと言われます」と付け加えた。
同店ではもう一つの姫路名物「ヒネポン」が人気。久原さんは「播州は養鶏所が多く、卵を産まなくなった親鳥をつぶして、焼いたり揚げたりしてポン酢に付けて食べる。『ヒネてる』地鶏とポン酢でヒネポン。僕も若い頃から食べていました。東京には売っていませんが、歯ごたえがあって日本酒に合うので、お客さんはだいたい注文されますね」。硬いが、かんでいる内に鳥の旨味がにじむ。
「地元では当たり前に食べていたものが他の地域ではそうではなかった」という例で言えば、中華そばに和風だしという姫路駅発祥の「えきそば」もそうだろう。久原さんは「えきそばはソウルフードですね。よく食べました。麺にかんすいが入っていて白くて、ペラペラのてんぷらで」と故郷の味を懐かしむ。ちなみに大阪・梅田の阪神百貨店地下のスナックパークでも食べられ、日清食品からは「姫路駅名物 まねきのえきそば」というカップ麺として商品化されるなど注目されている。
また、近年、全国ネットのテレビ番組で姫路名物として取り上げられた「アーモンドトースト」も地元では「普通」と思われていた純喫茶メニューだった。
おでんに生姜醤油、和風だしに中華麺、一般的なピーナツバターでなくアーモンドバターを塗ったトースト…。そんな、ひねりを加えた「変化球」が姫路発グルメの特徴の1つとなっている。Vリーグ姫路のスコートに入ったスリットにも、ちょっとした工夫と違いで独自性を発揮する「姫路精神」を感じた。
久原さんは「日本酒で家族を養ってきたので、日本酒に恩返しをという思いで、仕事を通じて知り合いが多くできた東京で開店して来年で5周年。コロナ禍でも常連さんは『姫路に帰らないで東京で店を続けて欲しい』と言ってくださいます」。日本酒を目当てに来店する人たちが東京で姫路の味を楽しんでいた。