還暦ディレクターの挑戦 映画「X年後」第3弾の米国上映へクラウドファンディング

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 「雲をつかむような、とてつもない金額ですよね」。愛媛県の地方局・南海放送のディレクター伊東英朗さん(60)はつぶやいた。

 自称「へっぴり腰」ディレクター。「怖がりで小心者」と自己分析するその人が、還暦を迎え定年延長となったタイミングで、目標金額1000万円のクラウドファンディングという大きな挑戦に打って出ている。

 39歳で16年間勤めた幼稚園の先生を辞め、40代でテレビの世界へ。程なくして出合った世界規模の放射能汚染問題がライフワークとなった。半世紀以上前、太平洋のマグロ漁場で100回以上の核実験が行われ、多くの日本のマグロ船乗組員が被ばく、放射性物質が日本や米大陸に降り続いていた。

 伊東さんは04年から高知県室戸市などに通い始め100人以上のマグロ船の生存者や遺族を丹念に取材。番組を毎年、製作してきた。16年には樹木希林さんにナレーションを依頼し、日本テレビのNNNドキュメントで「汚名」を放送。12、15年には映画「放射線を浴びたX年後」「-X年後2」を全国公開。上映と並行して語りかけ活動も行ってきた。

 気が付けば取材は17年目に。時代に逆行する地味なテーマだけに世間の反応は鈍い。それでも「やれることは、あつかましく事実を伝えていくこと」と粘り腰を貫く。「死の灰を浴びた」「キノコ雲を見た」と証言してくれた漁師が一人、また一人と世を去っていくことも伊東さんを駆り立てる。

 今年1月にイギリスに渡り、核実験に関わって被ばくした英軍の元兵士や遺族を取材して製作した「クリスマスソング」は5月に「NNN-」で放送された。同作を基に「X年後」第3弾を作り、核実験による放射性降下物の被害を受けながら、その事実が知られていない核保有国、米国で上映へ-。これが、今回のプロジェクトだ。

 コロナ禍の中、支援をお願いする葛藤と重圧を明かしつつ伊東さんは訴える。「目標は日本と米国の人に事実を周知して、一緒に問題に向き合っていくこと。そのために力をお借りしたい」。クラウドファンディングの期日は12月25日。強い覚悟を示した。

◆クラウドファンディングの詳細・支援は→https://readyfor.jp/projects/FALLOUT

(まいどなニュース/デイリースポーツ・若林みどり)

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