劇場版『鬼滅の刃』の実力は? コロナ渦で苦境の映画業界に救世主となるか

服部 健二 服部 健二
単行本「鬼滅の刃」
単行本「鬼滅の刃」

週刊少年ジャンプ(集英社)で連載され5月18日に発売された24号で最終回となった『鬼滅の刃』。昨年には、オリコン年間コミックランキングで『ワンピース』を抜いて1位に、先日発売された20巻では、コロナ渦による自粛要請にもかかわらず、書店に行列ができるなど、多くの話題を提供している。そして10月には待望の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の公開が控えているが、はたしてその実力はいかなるものか。ポップカルチャーに詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの萩原理史氏に話を聞いた。

「劇場版『鬼滅の刃』に対し非常に期待感が高い、というのは事実です」と萩原氏。小中学生のみならず、主婦層にもファンを持つ原作に対し、高い評価をしている。「アニメ化だけでなく、舞台化もされ、女性ファンを取り込み、ファン層を拡大しています。映像の美しさで評価の高いUfotable(ユーフォテーブル)が制作を行っていることや、原作の中でも人気の高い『無限列車編』を劇場版にしたことなど、話題に事欠かない」と説明する。

興行収入については、「30億円くらいは届くだろうと考えています。うまくいけば50億円くらいに届くかもしれません」と、予想する。主な根拠として以下となる。

・年間コミック売上で6位だった同じくジャンプ作品の『僕のヒーローアカデミア』(約500万部)だが、2019年に公開された劇場版『ヒロアカ』では約20億円の興行収入だった。
・Ufotableの制作した『Fate/stay night』が16.6億円を記録している。
・子供だけでなく主婦層からも支持を得ている。
・アニプレックスに加えて、東宝が配給に入るため、多くの劇場での公開されることが見込まれる。

「ニッチ層向けのアニメ作品は、ヒットすれば興行収入10〜20億円くらい。20億円を超えるとなると、一般層を取り込まないと届かない数字です。たとえば、家族で楽しめる作品、あるいはデートムービーといったジャンルになります」(前出・萩原氏)。『鬼滅』は、アニメファンはもちろんだが、その枠を超えて話題になっているという。

一方で、ディズニー作品の『アナと雪の女王』や新海誠作品の『君の名は。』、ジブリ作品のようなメガヒットには、簡単には届かないと予想し「100億円を超える作品は社会現象レベル。『アナと雪の女王』がヒットしたとき、未就学児がエルサのマネをしたり『レリゴー』と歌ったりしていたが、『水の呼吸、壱ノ型』などをマネするは、ちょっとハードルが高いのでは」と分析する。

さらにコロナショックの影響も懸念する。「外出自粛ムードが尾を引き、客が二の足を踏む可能性がある」と、かつての客足が戻るまで時間がかかる可能性もあるという。また、話題作の公開が“詰まってしまう”ことも指摘。「『エヴァンゲリオン』が8年ぶりに公開されるが、6月予定。これが自粛の影響で秋にずれ込むなどあれば、ライバルとして強い」と、混戦になる可能性も。

とはいえ、ジブリ作品も新海誠作品も“最初の作品”で30億円超えのヒットは生み出しておらず、『コナン』では6作目、『ドラえもん』は21作目と、簡単に狙える数字ではない。いきなり50億円超えとなれば、快挙になることは間違いない。

◆萩原理史(はぎわら・まさふみ) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、政策研究事業本部地域戦略ユニット、公共経営・地域政策部・副主任研究員。コンテンツや芸術文化、知的財産に関連する制度研究を専門としている。近著に2019年に子供向けの知的財産の書籍、共著「すごいぞ! はたらく知財 ――14歳からの知的財産入門(晶文社)

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