「つらくても生きてこそ」今苦しい人にはるな愛が伝えたいこと…インタビュー中に思わず涙も

黒川 裕生 黒川 裕生

「やっぱり『生きてこそ』だと思うんです。今、芸能界でも自ら命を断つ人がいたり、コロナ禍で生きるのがつらくなっている人がいたりすると思うんですけど、絶対に死なないでほしい」

はるな愛はそう言いながらぽろぽろと涙をこぼした。

1972年、大阪出身。男性として生まれたが、幼少時から自分を女性だと意識して育った。1996年に「ニューハーフタレント」として芸能界デビューし、2008年には「エアあやや」でブレイク。現在も第一線で活躍しているはるなも、10代の頃はいじめや性自認に苦しみ、死にたいと思い悩むことが何度もあったという。

「LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニングの頭文字を取った性的少数者の総称)という言葉ができたことによって、救われている人はたくさんいます。でも私なんかは逆に、『自分はトランスジェンダーに当てはまるのかな』と思う一方で、男性の部分がすごく強いので、トランジェンダーの方とお話しすると全然違ったりもするんですよ」

「人の性的指向、性自認には言葉では定義し切れない濃淡があります。今はそこを入り口にしながら、それぞれが個性を見つけていく時代なんでしょうね」

どん底を支えてくれた「伝説のゲイ・ボーイ」

芸能活動を始めた20代半ばの頃、憧れだったカルーセル麻紀のディナーショーに出演した。だが舞台上で全裸になる演出を拒否したことで、カルーセルを激怒させてしまう。そんなときに精神的な支えになってくれたのが、今年90歳になる「伝説のゲイ・ボーイ」吉野寿雄(吉野ママ)の言葉だった。

「落ち込んでいる私に『愛、あんたにはあんたの生き方があるんだから、合わせなくていいの。あんたのやり方でいいんだからね』と温かい言葉を掛けてくださったんです。当時タレントとしては鳴かず飛ばずで、道を切り開いてきた先輩の麻紀さんには叱られるわ、なかなか“キワモノ”のカテゴリから抜け出せないわで悩んでいたんですが、この出来事をきっかけに、ママの言葉を信じてもう少し頑張ってみようと思うことができました」

はるながエアあややで一躍人気者になるのは、それから10年以上経ってから。

「忘れもしません。テレビ収録の休憩時間に携帯を見たら、麻紀さんから留守電が入っていたんです。『おめでとう。頑張ったわね』って。険しい階段の上にいる麻紀さんから『ようやくここまで来られたのね』と言ってもらえた気がして、スタッフに心配されるくらい号泣しました。今思えば、この仕事を続けていく上で、吉野ママと麻紀さんの存在はとても大きなものでした」

吉野ママを主人公にした映画で監督デビュー

吉野ママは戦後初のゲイバー「やなぎ」で修業を積み、六本木に「吉野」を出店。勝新太郎や越路吹雪、美空ひばりら錚々たる人たちに愛される名店として知られた。吉野ママは、店を引退した今も、はるなやカルーセル、美川憲一ら多くの後輩に慕われている。

はるなは、そんな吉野ママを主人公にした映画「mama」で監督デビュー。吉野ママが架空の店で若い客を迎え、戦前、戦後のゲイの歴史を語るという、ドキュメンタリーとフィクションの間(あわい)をたゆたう不思議な味わいの作品に仕上げた。

「ママは『新宿二丁目』がない時代からゲイとして生きて、今より露骨な差別、言葉にならないような修羅場もくぐり抜けてきた人です。そんな経験をしながら培ってきたお客さんとの絶妙な距離感、『大変だったけど笑ってちょうだい』というスタンスがママの魅力。決して性的少数者の私たちだけの話ではなくて、生きづらさ、苦しさを感じている全ての人に見てもらいたいと思っています」

つらいのはみんな同じ 自分らしく生きて

そしてインタビューは冒頭の、はるなが涙をこぼした「生きてこそ」というメッセージに戻る。

「LGBTQという考え方が広まり、性的少数者にとっても少しずつ生きやすい社会になっている一方で、今もやっぱり差別はあります。それに、恋愛でうまくいかなかったり、思い通りに生きられずに苦しんだり…という悩みは以前と変わりません」

「でも、性的少数者かどうかなんて関係なく、つらいのはみんな同じなんですよね。どんなに偉い人でも、どんなにお金を持っていても、悩んだり苦しんだりしている。だからこそ私は、ありのままの自分を受け入れて、自分らしく生きることが大事だと思うんです。自分を押し殺して生きていたら、悩みの重さにきっと押しつぶされてしまいますから」

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映画「mama」は12月上旬、大阪のシネ・ヌーヴォで上映。2021年、各地の映画館で公開される予定。公式Twitterアカウント→ @mamathemovie1

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