英語の「they」といえば…複数の人を指す代名詞!だと学校で習ってきた人も多いと思いますが、そんな常識が変わりつつあります。男女別の「he」「she」の代わりに、「they」を単数形で使うことが増えており、現地の英語辞典にも用例が記載されるようになったといいます。専門家に詳しい話を聞きました。
SNSの投稿などでも、たびたび取り上げられている単数形での「they」の使い方。アメリカの有名出版社メリアム・ウェブスターが2019年9月、辞典に用例を追加しただけでなく、12月には「今年の言葉」に選んだこともあり、話題を集めていました。
英語の三人称の単数形は「he(彼)」「she(彼女)」と性別が区別されている一方で、複数形の「they(彼ら・彼女ら)」には、性別の違いがありません。そこで、性別をはっきりしたくない・させられないケースにおいて、「they」を単数形でも使うようになったといいます。なお、theyに続くbe動詞は、単数のときも複数のときも同じく「are」を使うといいます。
大手前大学国際看護学部教授で、女性の健康とジェンダーに関する研究に取り組まれている藤井ひろみさんにお話を聞きました。
――新しい使われ方が広まっているのですね。
theyの新しい使われ方は、いわゆるLGBT(性的少数者を総称する言葉)や、多様なSOGI(ソジ=性的指向・性自認の意味)について、社会的に理解が深まる中で広まってきたものです。男性や女性といった性別を特定しない表現が求められるようになったといえるでしょう。
――いつくらいから一般的な会話の中で使われているのでしょうか。
私は2014年にアメリカのサンフランシスコに留学していましたが、その当時でもtheyを単数形で使うことは決して珍しいことではなかったと思います。
アメリカでは、2015年に最高裁が同性婚を合憲とする判断を示したことが、多様な性のあり方について社会が認識する大きな転換点になりました。性自認が多様化する中で、男性・女性と人称を分けられることによって「不快」な気持ちや「生きづらさ」を感じる人がいるほか、見かけと実態が「想定に合わない」ことで周囲の人たちも困惑するケースが起きていました。
そこで、「自分はどのような人称で呼んでほしいか」を、自己紹介の際に説明したり、会話の中で確認するようなことが一般的に行われていました。その中で「theyを使ってほしい」という人もいて、広まってきたのだと思います。
――辞典にも掲載されたことが、日本でも知られるきっかけになりました。
文法的に正しい用法として認められたこともあり、日本でも広まっていくのではないかと思います。私は国際看護学部というところで学生たちを指導をしていますが、看護を実践する場では、英語を使う際にも多様な性の人がいることを前提に考えておかねばなりません。そのようなとき、今回のような「they」は、知っておくべき使い方だと思います。
――性別を特定しなくてもよい代名詞、というのは普段の会話でも便利に使えそうです。
私はtheyという言葉の使われ方に「ゆるさ」のようなものを感じています。男性・女性という区分に入らない「それ以外の何か」を指ししめすのではなく、男性も女性も含めた「より包括的なイメージ」をtheyは持っていると思います。それが言葉の使いやすさにもつながり、多くの人に広まっている理由のひとつなのではないかと考えています。