岡山県に住む藤原さんは、21年5カ月もの間一緒に暮らした猫、チビちゃんを亡くして、ことあるごとに涙があふれるような毎日を送っていた。甥の勧めで猫カフェに行くと、たくさんの保護猫と触れ合うことができ、少しずつ元気を取り戻した。しかし、なかなか新しい猫を迎える気にはなれなかった。
長年一緒に暮らしてきた猫、チビちゃんを亡くして
岡山県に住む藤原さんは、2018年9月14日、チビちゃんという猫を亡くした。21歳5カ月の大往生だった。庭に迷いこんできたところを保護して、ミルクを飲ませて育てたのだが、長年一緒に暮らしチビちゃんを亡くして、藤原さんは失意のどん底にあった。
何をしていても泣けてきて、車の運転をしながらチビちゃんのことを思い出し、前の車が左折するのに気づかず追突したこともある。周囲の人は、追突したから泣いていると思ったようだった。藤原さんは、当時のことを振り返り、うつ病に近い状態だったかもしれないという。
寂しさをまぎらわせるために保護猫カフェに行ってみた
藤原さんの様子を見ていた小学5年生の甥が、「猫カフェに行って、猫を触らせてもらったらどう?」と提案してくれた。甥も猫が好きだった。
2018年10月、甥に背中を押された藤原さんは、猫カフェを検索して、一番近い「保護ねこcafé ファミリア」に、甥と姪を連れて行ってみた。店には出窓があって、外からでも猫がいるのが見えた。猫カフェに入るのは初めてだったので勇気がいったが、店長が気さくな人で、すぐに打ち解けられたという。その日は30分だけ利用したが、たくさんの保護猫が次々甘えてくれて、猫を触っていたら泣けてきたという。
何度か足を運ぶうちに、他のお客さんとも話をするようになり、猫を亡くして辛い思いをしている人も結構いるということも分かった。なかには泣いてしまう人もいたが、猫を迎えようという気持ちになる人も多かった。ただ、藤原さんは、なかなかその気になれずにいた。
兄弟猫のソルトくんがお空へ
子猫のビネガーくんは5匹兄弟、生まれて間もなく広島県福山市内で発見され、福山市動物愛護センターが保護した。5匹とも体調がすぐれず、愛護センターが休みの日は、ミルクボランティアが世話をしたという。
2019年6月14日、ファミリアの店長は、「この子たちを元気にしてあげたい。里親を探して幸せにしたい」と思い、動物愛護センターからファミリアに迎えた。1匹は翌日亡くなった。
2019年7月29日、藤原さんは、ファミリアでビネガーくんと出会った。真っ白でちょこまか動き、兄弟以外の猫はシャーっと威嚇した。よく遊んで、よく食べる元気な子猫だった。
ビネガーくんの兄弟のセサミくん、リカーくんは里親が決まったが、ソルトくんは、もともと身体が弱かったので亡くなってしまった。
「ソルトを家族として見送ってあげたくて、オーナーに里親になりたいと申し出ました。ソルトは藤原ソルトとして、空に旅立ちました」
いつの間にか大きくなっていたビネガーくんの存在
藤原さんは、ソルトくんを見送った後、ビネガーくんも、いつか里親が決まってファミリアを出ていくのかと思い、なんともいえない寂しさを感じた。店長に「ビネガーにうちに来てほしい」と伝え、家族として迎えることになった。
2019年12月28日、ファミリアのスタッフがビネガーくんを連れてきてくれた。ビネガーくんは不安そうにキョロキョロしていた。ごはんもあまり食べられず、水もなかなか飲めない、トイレもなかなかできなかった。藤原さんは、ファミリアで水道から流れる水に興味を持っていたのを思い出し、水道から水を出してあげると飲んでくれた。その夜はリビングでビネガーくんと一緒に過ごし、不安にさせてはいけないと思い、徹夜で一生懸命遊んだのを覚えているという。
翌日の夜、寝室に連れて行くと、ゴロゴロ言いながら布団の中に入ってきて、一緒に寝ることができた。それからは、よく食べて、よく遊び、よく甘えるようになった。
藤原さんは、ビネガーくんと暮らし始めてからくよくよすることがなくなった。
「ビネガーのためにごはん代を稼がないといけないし、朝も、ビネガーが起こしにくるので、眠いなんて言ってられません。枕をひっくり返したり、顔の上に乗ったりして起こすんです。でも、私が起きたら安心するのか寝てしまいます」
抱っこしてほしい時は抱っこさせてくれるが、藤原さんが抱っこしたい時には「それはだめです」と拒否するビネガーくん。翻弄されつつも、ツンデレビネガーくんに藤原さんは首ったけだ。