唐揚げと竜田揚げの違いは何なのかという疑問がSNS上で話題になっている。
きっかけは「これまで唐揚げと思って作っていたものが世間では竜田揚げと呼ばれているものだと知った」という女性の投稿。
女性のレシピは鶏肉に生姜にんにく醤油胡椒をまぶし、3時間冷蔵庫で寝かせてから片栗粉を付けて揚げるというものだったようだ。
唐揚げと竜田揚げ……僕もこれまでこの2つの違いについて真剣に考えたことはなかった。インターネットで検索すると
「唐揚げの衣は小麦粉、竜田揚げの衣は片栗粉」
「下味を付けるときににんにくや生姜を使うのが唐揚げ」
「竜田揚げは本来、鯨を食べるための調理法」
など様々な説が出てきた。
また、歴史的な成立の経緯をたどると、唐揚げは17世紀には名称はともかく同様の料理が作られており、明治時代以降に「空揚げ」として少しずつ一般に普及したことがわかっているのに対し、竜田揚げは
「揚がった後の赤と白のコントラストを竜田川(奈良県)に紅葉が浮かぶ光景に見たてた」
「旧日本軍の艦艇・龍田で小麦粉がなく代わりに片栗粉をまぶして唐揚げを作ったところ人気になった」
という説があるものの確実な裏打ちはなく、大正時代から少しずつ一般に普及したことがわかるのみだ。
我々は唐揚げと竜田揚げの違いをどうとらえればいいのだろうか?神戸市で居酒屋「和食堂さく」を営む松本圭史さんにお話をうかがった。
中将タカノリ(以下「中将」):松本さんは唐揚げと竜田揚げをどのようにとらえていますか?
松本:諸説ありますが、僕は「唐揚げ」という大きなカテゴリーの中に「竜田揚げ」があると思っています。パン粉を付けると「フライ」になるので少し変わってしまいますが、細かな粉をつけて揚げたものはなんでも唐揚げだし、個人的には素揚も唐揚げの一つだと思っています。
中将:なるほど……唐揚げとはとても広いジャンルなんですね。
では竜田揚げはどう調理すればそれらしくなるのでしょうか?
松本:「こう作れば竜田揚げ」と言い切ることは難しいですが、あえて言うなら衣に片栗粉を使い、具材に醤油、みりんで下味を付けることではないでしょうか。そして一般の方たちのイメージに合わせるなら揚がり具合は白っぽいほうがいいのかもしれません。
今回、僕なりに鶏で唐揚げとを竜田揚げを作り分けてみました。
唐揚げは衣に醤油を練り込みますが、肉は味付けせずそのまま。
一方、竜田揚げは衣にはなにも入れませんが、肉には直前に下味をつけています。衣はどちらも片栗粉を使いました。
中将:唐揚げは小麦粉を使うものかと思っていましたが片栗粉なんですね!
松本:今、唐揚げの衣は小麦粉だけでなく片栗粉、米粉、コーンスターチなどさまざまな材料が使われています。小麦粉の衣は冷めても美味しいですが、サクサクした食感を出すなら片栗粉の衣のほうがいいと思っています。
中将:そうなると本当に唐揚げと竜田揚げの境目って微妙ですね……。
松本:本当に微妙です。唐揚げの作り方に制約はないけど、竜田揚げにはあるというだけのことなんで。
あとは雰囲気ですかね。唐揚げというより竜田揚げと言った方が和風っぽいので。
中将:たしかに魚を揚げたものは竜田揚げと呼ばれていることが多い気がしますね。
「和食堂さく」店舗情報
所在地:兵庫県神戸市中央区相生町4-8-1
営業時間:18:00~25:00
定休日:毎週日曜日
公式サイト:https://www.facebook.com/wasyokudosaku/
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松本さんに作っていただいた唐揚げと竜田揚げはどちらもたいへん美味しかった。しかし、さまざまなタイプの唐揚げを食べ慣れた我々にとっては、これらを食べ分けて「こちらが唐揚げっぽい」などと言い当てることは困難であるように思われた。
唐揚げと竜田揚げ……どちらも誰か1人が考案したタイプの料理ではなく、竜田揚げの歴史的な経緯も明らかにならない以上、この2つに明確な違いを求めることはナンセンスなのかもしれない。
あえて言えば松本さんがおっしゃるように
「唐揚げという大きなカテゴリーの中に竜田揚げがある」
「唐揚げの作り方に制約はないけど、竜田揚げにはある」
というのが現状に即した認識なのだろう。