揚げ物の買い時はこの日だ!…スーパーの惣菜売り場で働いて分かった「油の法則」

平藤 清刀 平藤 清刀
売り場へ出す準備中のヒレカツと唐揚げ(撮影・平藤清刀)
売り場へ出す準備中のヒレカツと唐揚げ(撮影・平藤清刀)

スーパーで売られている揚げ物には、実は「買い時」がある。何曜日に来店したら、新鮮な油で調理された揚げ物を買えるのか。まだ駆け出しのライターだった頃、生活費の足しにするため、とあるスーパーマーケットの惣菜部門でアルバイトをしていた。そこでの経験からご紹介したい。

店名を仮に「港が見えるスーパー」としておこう。港が見えるスーパーでは、水曜日と土曜日の朝に新聞折り込みで広告を出していた。お買い得の商品は週によって変わるが、惣菜部門の揚げ物は必ず1割程度値引きするか、値段はそのままで中身を増量していた。

そんな広告日に必ず来店する高齢のご婦人がいた。あるとき流通センターから届いたばかりの商品を売り場に陳列していると、そのご婦人から声をかけられた。

「ここの天ぷらは美味しいね」とおっしゃる。聞けば、普段の買い物は自宅近くのスーパー、すなわち港が見えるスーパーの競合店へ行くそうだが、揚げ物が安くなる水曜日と土曜日はわざわざ足を延ばして買いに来るという。

「油がええねん。食べた後で胸焼けせぇへんから分かるねん」

おっ、このご婦人、本当に分かっていらっしゃる。

そう、港が見えるスーパーでは、揚げ油はグレードの高い大豆油を使っている。だが、おいしい理由は、それだけではない。広告日の揚げ物が、ふだんよりおいしい理由があるのだ。

スーパーの惣菜売り場で扱っている揚げ物は、大きく分けて「天ぷら」と「フライ」がある。いうまでもなく、油の質と鮮度は味に大きく影響する。とくに関西人は揚げ物の味を評価する際に「油が美味しい」とか「油が悪いなぁ」というほど、油の味にまでこだわる。

港が見えるスーパーの揚げ物は「フライヤー」という業務用の油槽で揚げられる。バックヤードに3台設置されていて、油の温度を160℃(天ぷら用)設定してあるものが1台、180℃(フライ・唐揚げ用)に設定してあるものが2台あった。

開店2時間前には、揚げ物を担当するパートのおばちゃんが出勤してくる。この人は勤務中、揚げ物に専念する。フライヤーにいったん電源が入ると閉店まで加熱し続けるため、業界でいう「油が疲れた」状態、すなわち酸化が進む。しかも天かすやフライのパン粉が剥がれ落ちて汚れている。だから定期的に交換したり不純物を取り除いたりする作業をしなければならない。

それを、いつやるか? 冒頭のご婦人が、わざわざやってくる日、すなわち広告日にはきれいで新鮮な油で揚げた商品を売り場に並べたい。フライヤーの油を入れ替える作業は、広告日の前日にやるのだ。

交換したての新しい油は、天ぷらに使う。1~2日間天ぷらを揚げた油は、天かすを濾し取って隣のフライヤーへ移してフライ用に「格下げ」する。フライ用になった油はそれから1~2日間、主として唐揚げ用に使われたあと、さらに隣のフライヤーへ移されて、はパン粉のついた「フライ用」になる。そこで1~2日間フライを揚げた後、お役御免となって凝固剤で処理される。

このように油を「格下げ」していくのには、ちゃんとした理由がある。天ぷらは衣をきれいに仕上げたいから新しい油を使う、唐揚げはキツネ色に仕上げたいから、必ずしも新しい油でなくてもいいし、パン粉が剥がれ落ちて油が濁ったり汚れたりしやすいフライは廃棄前の油を使うのだ。

広告が入る前日には、たとえ1日しか使っていない油でも必ず交換作業をした。ということは、唐揚げ用とフライ用も順送りで入れ替わる。広告日が水曜だったら、火曜日のお昼過ぎにはまっさらの油で揚げた天ぷらが買えるし、唐揚げだって天ぷら用から格下げしたての比較的新しい油で揚げたものが買えるというわけだ。

冒頭に登場したご婦人の「広告日の天ぷらがおいしい」というお褒めの言葉は、バックヤードでこのような作業が行われているからなのである。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース