「愛読書は何?」「尊敬する人物は?」「家族構成は?」-。これらは就職活動の面接で採用担当者が実際に聞きそうな質問です。当たり障りのない内容にも思えますが、実は法令では不適正な質問に当たります。なぜ不適正なのでしょう。また、面接での質問にはどのようなことに気を付ければいいのでしょうか。厚生労働省の出先機関の一つ、滋賀労働局の担当者に聞きました。
-愛読書や尊敬する人物、家族構成を就職面接で聞くのは、なぜいけないのでしょうか?
「採用選考は人権を尊重して行わねばなりません。愛読書や尊敬する人物は本来個人の自由であるべきで、職業の適性や能力に関係のない問いです。また家族構成も関わりないことであり、父子家庭や母子家庭など特定の人を排除する可能性のある質問です」
-高校生にはクラブ活動に関する質問も避けた方がいいそうですね。
「家庭の事情により、費用のかかるクラブ活動ができなかった生徒もいます。『高校生活で頑張ったこと』などの質問にしてもらうようアドバイスしています」
「参考程度」でもダメ
-深く意図しないまま参考にと思って、こうした不適正な質問をしてしまうことは多そうです。
「参考程度と思っていても、聞いてしまうと先入観を持って就職希望者を見てしまうおそれがあります。社内で十分に打ち合わせや準備をして面接に臨むべきでしょう」
-こうした質問をしてはいけないという法令などはありますか。
「あります。職業安定法5条の4で『業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集』と決められています。さらに、1999年の労働省指針では、収集してはならない個人情報として、本籍や家族の職業をはじめ、スリーサイズ、人生観、購読新聞・雑誌、愛読書、労働組合への加入状況などを挙げて具体的に示しています」
-滋賀県教育委員会がまとめた高校生への就職面接調査によると、不適正質問の件数は毎年30~40件で横ばい状態です。近年、不適正質問はあまり減っていないように思いますが、なぜ減らないと思いますか?
「新型コロナウイルスの感染拡大までは雇用情勢も良く、初めて求人を出す企業や久しぶりに求人を再開した企業が多くありました。不適正質問についての知識が少ない企業が含まれていたのかもしれません」
-不適正質問を防ぐためにどんな対策をしていますか。
「厚生労働省が作成する『公正な採用選考をめざして』や、滋賀県が発行する『採用にあたって』などの冊子を企業に配布し、研修会も開いています。さらに、滋賀県内の場合、従業員20人以上の企業には、人権啓発担当者を置いてもらい、国、県、市町の担当者が訪問するようにしています」
-しかし、不適正な質問は根強く残っています。
「人事担当者は何がいけないかを分かっていても、社長や重役が問題点を分かっていないケースがあります。毎年夏には企業のトップクラス向けに研修会を行ってるほか、面接前には社内で十分な打ち合わせを、と注意を促しています」
どんな質問をすればいい?
-不適正な質問はよく分かりました。では、面接の際にどんな質問をすればいいのでしょうか。
「そういった問い合わせは多くあります。国の『公正な採用選考をめざして』や県の『採用にあたって』の冊子では具体的な質問例を挙げています。面接の導入部では、たとえば企業のイメージや第一印象を聞く。さらに、志望動機や入社後に挑戦したいこと、仕事をする上で一番大切なことは何だと思うか、などの質問も例として紹介しています」
-質問を受ける側の意識も変わってきましたか。
「近年では就職希望者の意識も高まってきました。『ここの会社は不適正な質問をする』と認識されると、たとえ採用を通知しても辞退される可能性があります。そうなると良い人材を逃すことになり、企業にとっても損失になると伝え、啓発しています」
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厚生労働省の発行する「公正な採用選考をめざして」は厚生労働省のホームページ上からも閲覧することができます。