今年の花火はお家でね!新聞紙上に打ち上がる「AR花火」…コロナによる「諏訪湖祭湖上花火大会」の中止で、地元紙が粋な試み

川上 隆宏 川上 隆宏

新型コロナウイルスの影響で、各地の花火大会が中止になっています。長野県諏訪市の諏訪湖で毎年8月15日に行われてきた花火大会「諏訪湖祭湖上花火大会」も取りやめとなりましたが、なんとか自宅で楽しんでほしいと、地元紙である信濃毎日新聞が粋な取り組みを行いました。15日の朝刊を、ちょっとした仕掛けを組み込んだ特別紙面でラッピングするというのです。夕闇が迫る諏訪湖の風景を印刷した特別紙面に、スマホを向けてみると…なんということでしょう!AR(拡張現実)技術で、花火の様子が浮かび上がるといいます!

「諏訪湖祭湖上花火大会」は、終戦後の復興を目的に70年以上続けられてきました。昨年度は46万人を動員するなど国内最大級の花火大会といいますが、コロナの拡大を受けて今年は中止に。そこで、「実験 ARおうち花火大会」と称して、新聞紙面でARの花火を楽しめる企画を考えたといいます。

見方はとても簡単で、紙面の隅に印刷されたQRコードをスマホで読み込み、風景が印刷された紙面に向けるだけ。スマホのカメラが読み込んだ紙面のイメージの上に、花火が打ち上がる様子が見えます。

ARによる映像製作を担当した、株式会社アタリの担当者に聞きました。

―特別なアプリをダウンロードせず、QRコードを読み取るだけで、ARが見えるというのは新しい試みのような気がしています。

「端末側でカメラの画像をコンピューターが解析して、指定の位置に動画や3Dオブジェクトを表示できるようになっています。カメラの映像をブラウザ上で高速に解析して、紙面の位置や傾きを検出する仕組みと、ブラウザ上に3次元空間を描画するための技術を利用しています。これらは最近のブラウザでやっと安定して動作するようになってきた技術だったりします。これから様々な場面で利用されていくのではないかと期待しています」

―カメラで撮影した紙面の上に、ARでリアルな花火を表現するのは大変だったのではないでしょうか…。

「半透明にして背景に重ねるような表現ができないため、光のにじみの部分などを、自然に見えるように細かい調整を行いました。諏訪湖の湖面に映る反射の花火がよりリアルに見えるよう、映り具合や揺らぎの表現にも注力しています。色や形については昨年までの諏訪湖祭湖上花火大会の動画を参考にしています」

   ◇   ◇

今回の取り組みを推進した信濃毎日新聞社の担当者によると、今回のARで再現されるのは、諏訪湖祭湖上花火大会の「名物花火」でもある、「Kiss of Fire」をオマージュした花火といいます。

「Kiss of Fire」は、水上大スターマイン(速射連発花火)のプログラムで、水面から半円の扇状に開かせた花火を左右離れたところに打ち上げ、打ち上げるたびに接近させて重ねていくいう演出をしているそう。半円状の花火は湖面に映り1つの円のようにも見えるため、諏訪湖ならではの花火なのだそうです。また、紙面に印刷された風景は、花火大会の招待席のエリアから撮影されたものといい、より現実に近いアングルでAR花火を楽しむことができそうです。

同社は取り組みにこめた思いとして、「新しい生活様式や働き方が求められるNew Normal時代におけるイベントの新たな楽しみ方を感じていただける紙面にしたい」「本物の花火ではありませんが、この紙面が少しでも多くの方が前を向くきっかけに、そしてこれまで気づかなかった何気ない日常の尊さに思いを寄せる時間にしていただきたいと願っております」と説明。特別紙面にはこんなメッセージを寄せています。

<信濃毎日新聞 メッセージ全文>
離れることで、見えたもの。
帰っておいで。 遊びに行こう。 会いたいな。
当たり前に交わしていた言葉たちも なかなか口に出せない、今。
離れてしまった距離は、どうすることもできないけれど。
会えないぶん、おもうことはできる。 気づかなかった大切さを、かみしめることはできる。 次に会える日を楽しみに、明日を生きることができる。
大きな花火が、 離れて見たときに はっと美しく感じられるように。
離れることで見えたものが、この夏 私たちを少し強くしてくれるはずだ。

   ◇   ◇

手元に新聞がない方も、下記公式サイトにアクセスし、 スクリーンに表示された画像をスマホで読み込むことで、楽しむことができます。

https://shinmai-ar-hanabi.com

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