販売員同士がコソコソ会話→「お前先月、貯めていただろ?」「鉄砲打つよりマシだろ!」<家電量販店編>

おもしろ業界用語

平藤 清刀 平藤 清刀

買い物はもっぱらネットで済ませるという人でも、店内へ足を一歩踏み入れたら、なんだかワクワクする空間が家電量販店。そこで働く販売員の世界にも、やはり業界特有の言葉が存在するのだ。元大手量販店の販売員で、いまも複数の量販店の常連客だというYさんに伺った。

「これください」の客ばかりなら楽なのに

家電量販店へ足を運ぶとき、買いたい商品の候補をあらかじめ絞り込んでおいて、店頭で説明を聞いてから決めるか、すでに「これ」という商品を決めて買いに行くパターンがある。

販売員にとってありがたいのは、買いたい商品が決まっている客だ。時間をかけてあれこれ説明する手間が省けて、支払いや配送の手続きをするだけでいい。そういう客を「これくださいの客」というそうだ。

後述する「ノルマ」に、ひとつ近づくわけだ。でも売りっぱなしではない。

「買ってくださったお客さんに、アフターフォローをすることがあります。それを『サンキューコール』っていいます」

購入の手続きを終えた後や配送が済んだ後、電話やハガキで「使い方でご不明な点はございませんか」と尋ねる。ついでに「他にご購入を検討中の家電製品はございませんか」と、次も当店で買ってくださいねとさりげなくアピールするのだ。

仕事熱心な販売員だと自発的にサンキューコールをやるが、ほとんどの場合は接客マニュアルに従っているだけ。

「厳しい店では、サンキューコールをした日時を報告させています」

貯めていたことがバレたら、めちゃくちゃ怒られる

ネット全盛のご時世にわざわざ郵便で、過去に買い物をしたことのある量販店からダイレクトメールが届く。開けてみると「ご来店いただくだけで50ポイント進呈」とか「店頭表示価格より、さらに5%割引」という広告と、粗品の引換券までついている。

「あれは『縁結び』といって、集客イベントのひとつです。もちろん買ってもらうことが目的なので、販売員にはイベント期間中のノルマがあります。だから要領のいい販売員は、縁結びに備えて貯めておくんです」

―貯めるとは?

「すぐに上げられる売り上げ伝票を打たずに手元に残しておいて、あとから打つんです」

例えば7月の売り上げノルマを、すでに達成しているとする。でも8月も同じ調子でノルマを達成できるか分からないので、7月に売れたのに8月に入ってから伝票を打つわけだ。このような行為を「貯める」という。

縁結びのノルマも同じように、達成したように見せるために貯める販売員がいるということだ。

「本来は不正行為なので、バレたらめちゃくちゃ怒られます」

「貯める」のは、売り上げ伝票を打つ時期をずらしているだけで、売り上げの実態はある。売れていないのに売ったように偽装する不正も起こるという。

「『鉄砲』とか『唐揚げ』とか、店によっていろんないい方があります」

縁結びのイベントがなくても、販売員にはふだんから厳しいノルマが課せられている。どうしても達成できそうにないときは、架空の伝票をでっち上げる強硬手段に出る販売員もいるとか。

「店自体のノルマが厳しいときは、店長が指示して架空伝票を打たせるという話も聞いたことがあります。いずれも一時的にごまかすだけ。鉄砲を打っても、どうせバレるんですけどね」

鉄砲を打つ販売員が出るのは、上司から「詰められる」から

「パワハラが社会問題になっているせいか今はあんまり聞きませんが、ノルマを達成できない販売員に上司が『やる気あんのか?』とか『今月は必ず達成できるんだろうな』と、威圧的に問い詰めるんです」

なるほど、そんなことをされるくらいなら、架空伝票でごまかそうとする気持ちになるだろう。

   ◇   ◇

最後に、これを知っておくと販売員から「この客、タダ者ではない」と思われる隠語があるそうだ。

「Qランクの商品ありますか?」って尋ねてみてください。きっと、一目置かれます(笑)。そんな隠語を知っているお客さんは、滅多にいませんから」

Qランクとは、型落ち品のこと。「旧型」の「旧」が語源とされている。でも、なぜか「Zランク」と呼ぶ店もある。落ちるところまで落ちたという意味なのか。最新型にこだわらない人には、比較的安く買えるQランクはありがたい。

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