フィンランドの芸術家、トーベ・ヤンソン(1914-2001)によって生み出され、世界中で愛されている「ムーミン」シリーズ。大阪市のあべのハルカス美術館では、2020年7月4日より「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」が開催されている。「ムーミン」シリーズのコレクション約500点が展示され、原画やスケッチ、グッズやポスターまで、さまざまな角度からムーミンやその仲間たちの表情を楽しむことができる。
ムーミンといえば、ふくよかで愛らしいスタイルが特徴的。物語は子ども向けながら、大人の心の琴線にも触れてくる。トーベが生み出したキャラクターに、一体どれだけの人々が魅了されてきただろう。しかし、そんな魅力的なムーミンが、実は「お化け」だったということをご存知だろうか。
ムーミンこと「ムーミントロール」が誕生したきっかけは、作者のトーベが子どもの頃に経験した2つのエピソードにある。1つ目は、つまみ食いばかりしているトーベに、叔父が「お化けのムーミントロールが出てくるぞ」とからかった、という話。「首筋に冷たい息を吹きかけるお化け」に、トーベは想像を膨らませた。2つ目は、トーベが弟との口論で言い負かされたエピソード。トーベは、悔しさから壁に生き物「スノーク」を描いた。その鼻の大きな生き物こそが、「ムーミン」の原型だ。
そんな「ムーミントロール」が初めて独立した作品となったのが、1945年のこと。小説シリーズの第1作目「小さなトロールと大きな洪水」が刊行された年だ。それから1970年に至るまで、全9作の小説が発行された。1作ずつムーミンを観察すると、彼の成長が見られる。徐々にふくよかになっていくムーミンのスタイルが、興味深い。
1950年代に、イギリス、アメリカ、また母国フィンランドでも翻訳版が刊行。世界各国で人気が高まった。それに伴い、ムーミンは「本の世界」から飛び出すようになった。ムーミングッズが販売されたり、ムーミンが描かれた企業・キャンペーンの広告が世に出されたりすることで、ムーミンはさらに多彩な顔を見せるようになった。
中には、許可を得ることなくムーミンのグッズを制作したアトリエもあった。しかし、その愛らしく個性ある作風をトーベはすっかり気に入り、のちにライセンス契約を結んだという。
子どもを脅かす「お化け」から、世界中で愛されるキャラクターへ。時代、年齢、国境などを越えて親しまれてきたキャラクターの魅力に迫る「ムーミン展」。足を運べば新しい発見があるかも。