「竹の水仙」という古典落語がある。
主人公は伝説的な彫刻職人・左甚五郎。甚五郎が“宿代”として竹で作った水仙の蕾に、宿の主人が言われた通りに水をやると、明け方に朝日を受けて可憐な花が開く…という驚きに満ちた噺だ。なんと、この水仙を榧(カヤ)と鹿の角で実際に作ってしまった人がいる。木彫刻家の大竹亮峯さん(@ryoho_otake)。水を注ぐとゆっくりと本当に花が開くという目を疑うような技巧と、水仙の凛とした美しさは、SNSなどでも「まさに令和の甚五郎」と大きな衝撃をもって受け止められた。
大竹さんは1989年東京生まれ。京都伝統工芸大学校で木彫刻を学び、卒業後は木彫根付から欄間まで手がける一位一刀彫の木彫師・東勝廣氏の下で修業したという。これまでにも、蟹や蝉などの精緻な木彫作品で注目を集めてきた大竹さんに、竹の水仙の制作背景などについて話を聞いた。
完成するまで4年
――作品に水を注ぐと花が開くのは、どういう仕組みなのでしょうか。
「こちらはお客さんとの約束があるのでお答えできません。仕組みについては“浪漫”ということでご了承ください」
――なるほど。では、オーダーを受けてから完成するまで4年かかっているそうですが、この間、どのような試行錯誤がありましたか。
「一番重きを置いたのは、ただ花の開く作品ではなく、落語の感動を連想させるような、芸術的背景を含んだ作品にすることです。花の動きやフォルム、開く時間などを演出するのには時間が必要でした」
あの歌丸一門からも称賛の声
Twitterで大竹さんが作品を紹介した投稿には、「竹の水仙」を十八番としていたことでも知られる桂歌丸一門の桂枝太郎さんからも「素晴らしいです。今後はこれをイメージして『竹の水仙』をやらせていただきます」「令和の甚五郎ですね(笑)」とリプライが寄せられた。
大竹さんも「落語の素晴らしい世界を表現しきれているかは不安な所ではありますが、この噺の素晴らしさを届ける一助になれば幸いです」「歌丸一門の方に知って頂けて本当に恐縮です」と応じている。
――この反響には感慨もひとしおだったのでは。
「歌丸一門の落語家さんからのリプライはもちろんとても光栄に思っています」
「これから落語を聞いてくださる方々のイメージの幅を限定してしまわないか不安な部分もあったのですが、桂枝太郎さんからのリプライで少し安心しました」
――今温めている作品のアイデアや、今後の活動については。
「技術や技巧に富んだものが必ずしも人の心を打つとは思っていません。深い共感を得られるような作品を生み出せるよう、人間性を深めていきたいです」
ちなみに大竹さんの投稿によると、この作品は全て天然素材でできているため、「甚五郎のいた江戸時代でも再現可能と言えるかもしれません」とのこと。「水を抜けば蕾にもどり、再び咲かせることができます」
令和の甚五郎……やはりSUGOSUGIRU!
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■大竹亮峯さんのサイト
http://japanese-sculpture.com/ryoho-otake/