そしてもう一つは、1988年公開の主演映画『死霊の罠』。日本初の本格的スプラッター映画として再評価され、有志によるクラウドファンディングで400万円以上を集めて昨年末初めてBlu-ray化された。小野にとっても思い出深い作品だという。
「私の体に火が走ってヒデキという怪物が産まれるシーンでは、火薬の熱でお腹をヤケドしました。水を降らせるシーンは12月の撮影ということもあり、雪も混じって体の芯から冷えた。予算もないし、毎日泥だらけでした」と昭和ならではのハードな撮影を振り返るが「アクションシーンではバレー部だった経験が活きました。回転レシーブが得意だったので、ノースタントですべてやりました」と誇りを持っている。
鬼として知られる故・池田敏春監督もアクが強かった。「池田監督がイメージする嘔吐演技が上手くできず、火のついたタバコをぶつけられました。『衣装が燃える!』とビックリ。まさに昭和の現場ですが、それだけ池田監督の思い入れは強かったし、私も監督を信頼していました」と懐かしむ。
公開から30年を超えた現在も作品が愛されていることには「しっかりした作品には今も昔も関係がない。勢いと情熱が根底にある作品はずっと残るものです」と実感を込めて「時代を超えて『死霊の罠』が評価されていることを池田監督が知ったら、どれだけ喜ばれたか…」と異才の早すぎた死に無念そうだ。
そんな再注目されつつある小野が約10年ぶりに出演した『クシナ』は、女だけが暮らす男子禁制の山奥の集落を舞台にした母と娘の物語。第13回大阪アジアン映画祭では、JAPAN CUTS Awardを受賞し、北米最大の日本映画祭であるニューヨークのJAPAN CUTSにも招待された。人里離れた山奥で女性だけのコミュニティを形成する集団の長・オニクマ役を小野が務めた。
出演のきっかけは「若いスタッフと仕事をしてみたかった。今の若いスタッフたちがどんなものを作ろうとして、どんな動きをするのか見たかった」とここにも裏方への視線がある。ノーメイクで演じたが「ファンタジーである一方、リアルな生き様がなければいけない。ノーメイクでやりましたが、改めて皺の似合う女優に憧れました」と歳を重ねることへの期待を口にしている。