西郷隆盛の「玄孫」社長がコロナ禍の打撃受ける古都の酒造救済へ…奈良と京都の夏冷酒セット発売

北村 泰介 北村 泰介

 西郷隆盛の玄孫(やしゃご)である奈良県の酒類専業卸会社「泉屋」の今西栄策社長が、新型コロナウイルスの打撃を受ける京都と奈良の酒造を救おうと立ち上がった。「奈良の夏冷酒」「京都の夏冷酒」という名の「古都の酒蔵飲み比べセット」を開発し、5月から夏季限定で発売している。

 今西社長は1971年生まれ、奈良県奈良市出身。同志社大卒業後、大手酒造会社で5年間勤務後、98年に帰郷し、2007年より現職。本年、同大大学院ビジネス研究科修士課程(MBA)を修了。西郷隆盛と三菱創業者の岩崎弥太郎は高祖父、元内閣総理大臣の幣原喜重郎は曽祖父にあたる。今西社長に話を聞いた。

 -拠点である奈良だけでなく、京都も対象とした経緯は。

 「3年目くらいから京都の酒造メーカーより、『京都でもこんなの旗振ってくれる問屋ないかなあ』と言われるようになりました。大学の先生や大手量販企業のバイヤー、地域金融機関などと相談したところ、京都の統一ブランドも大きな商機が見込めることに加え、京都の地域酒類卸売業者の関心の低さなどもあり、奈良の夏冷酒発売5年目の2018年より京都も統一ブランドを始めた次第です。元々、当社の創業も京都府相楽郡木津町(現:木津川市)であったこともあり、京都南部エリアにも一定の関係性があったことも、その成功要因と考えています」

 -試飲会での反応や、そこから感じたことは。

 「奈良では7年目を迎え、『もうすっかり定着しましたね」と言われることが多くなったことはうれしい限りです。今までは『地元のお客様に地元の価値を提案する』ための取り組みでしたが、奈良・京都の二大古都ブランドという、お金や努力では得られない価値を持っていることを踏まえ、その価値を全国の皆様に知って頂くための発信が必要であると考えています」

 -コロナ禍で酒造業が直面している問題点とは。

 「地方の酒造メーカーは業務用(飲食店での消費)割合が高く、飲食店の営業自粛は大きなダメージです。それ以前に日本酒の国内消費は右肩下がりであることから、彼ら(酒造メーカー)はインバウンドや観光客をターゲットにしてきた商品などに取り組んで来られたわけですが、その戦略が行き詰まっていることは現実であり、しばらくは我慢の時が続きます。商品が売れないこの現状を鑑み、メーカーによっては、来年度の酒の生産を行わないところも出てきているようです。ただ、地域の酒造メーカーは長い業歴のなかで、蓄積を持っているので経営上の信用リスクがすぐに表面化することは少ないと考えています」

  -居酒屋などが休業を余儀なくされた影響は?

  「飲食店の営業自粛の影響は大きいダメージです。消毒用の高濃度アルコールを急きょ販売されたりしているメーカーもありますが、モノがそろってくる中で、こちらのマーケットもレッドオーシャン(編集注・競争の激しい既存の市場)になりつつあると考えています。外からのお客様にもあまり期待できない中、まだ具体的な戦略を立てられないメーカーが多いと思います」

  -最後に「家系」についてうかがいます。「西郷隆盛の玄孫」ということで、どのような思いを抱いてこられましたか。NHK大河ドラマ「西郷どん」(2018年)など、世の中で「西郷ブーム」が起きた時の身の処し方は?

 「私が西郷隆盛の玄孫であることは小学生の時から知っていましたが、それを外部の方にお話ししたことはほとんどありませんでした。歴史上の人物を祖先に持つことで、私自身が比較されたり、場合によってはイジメにあうかもしれないと思っていたからです。正直なところ、大河ドラマ『西郷どん』も私自身、ほとんど見たことがありません。私は西郷家の墓参を毎年行っていますが、このブランドを始めたきっかけとなった鹿児島県の同業者からのアドバイスに薩摩の縁を感じています」

  改めて「家系図」を見せていただいた。今西社長は「西郷隆盛、岩崎弥太郎ともに母方の高祖父となります。幼いころは祖母からよく西郷家や岩崎家の話を聞かされたものでした」と明かした。

 コロナ禍という時代の分岐点で初めて迎える夏。高祖父が躍動した激動の時代に思いを馳せながら、冷酒で猛暑とコロナストレスも吹き飛ばして…と願いを込める。

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