西日本豪雨で被災の酒造会社「アルコール度数77%」のスピリッツ開発に込めた思い

広畑 千春 広畑 千春

 新型コロナウイルスの感染拡大による需要急増で、手指消毒用エタノールの需給がひっ迫する中、高知県の酒造メーカーがアルコール度数77%のスピリッツを開発し、SNSなどで話題を集めています。消毒用アルコールと同等のアルコール分ながら、「消毒や除菌を目的に製造されたものではありません」と記すスタンスに賞賛の声が続々と。この商品に込めた思いを取材しました。

 商品名はその名も「アルコール77」。原料は醸造アルコールと香料のみ。厚生労働省が消毒用アルコールの代替品として認めたアルコール度数70-83%などの規定を満たし、希望小売価格(税別1200円)には酒税相当分も含んでいます。ツイッター上では「酒蔵が本気出した」「法令上転売抑制もできる」との声や、注意書きについて「押すなよ、絶対押すなよ!っていうアレですか?」(押せ=ここでは消毒に使って、ということ)とお笑いトリオ・ダチョウ倶楽部のネタを引き合いに出すツイートも相次いでいます。

 菊水酒造は、高知県安芸市にあり、ルーツは江戸時代にさかのぼるという老舗の酒造会社。日本酒や焼酎、リキュールやラム酒などを製造しています。「アルコール77」について、春田和城社長は「酒類原料である醸造アルコールは潤沢に流通しているのに、同じエタノールである消毒用アルコールや除菌用アルコール製剤が手に入らない状況が長期化している事に対し、酒類メーカーとして何かできるのでは無いか?と考えたのが開発のきっかけでした」とします。

 2月下旬頃からの製造開始を想定し、問題点の確認と対応策の検討を行っていたそうですが、この時点では「もし、製造開始する場合には」という程度だったとか。しかし、感染拡大は止まらず、店頭だけでなく医療現場などでも需給がひっ迫する状況に。同社でも2月末から3月初旬に具体的検討に入り、3月中旬ごろから製造開始のために動き始めたそうです。

 とはいえ、普段の酒造りとは全く違う苦労も。春田さんは「国税局、経済産業局、厚生労働省・県庁、消防など関係省庁が多く、確認事項が多かったですね。各省庁には丁寧に関係する法令の条項や注意点等をご指導頂いてきました」と振り返ります。

 ここまでするのは、ある思いもありました。

「実は、2018年7月の西日本豪雨の際、弊社の栃ノ木工場のすぐ近くを流れる安芸川が氾濫し、事務所も最大1メートル程度浸水しました。工場への道路も増水により流出し、数週間程度出荷できない状況になったんです」と春田さん。それでも多くの支援を得て、復旧を果たし、出荷再開にこぎ着けたそうです。

 「当社は、お酒や醗酵の技術を活かし、皆さまが楽しく笑顔になって頂ける製品作りをテーマとして企画開発を行ってきました。この製品の供給を通じて、現在の状況の改善に寄与し、皆様に笑顔になって頂ければご恩返しになるかと」と春田さん。

 今月10日の販売開始を前に、3日にプレスリリースを出したところ、ツイッターで拡散され注文が殺到。現在、在庫はあるものの配送の都合でメールでの受注を一時停止していますが、9日には販売サイトをHP上に掲載する予定といいます。春田さんは「予想をはるかに上回る反響を頂き、驚いております。対応に追われておりますが、応援メッセージなどをたくさん頂く一方、切実な状況が伝わるメールもあり、メーカーとしてできるだけ早期に皆さまの元へ製品をお届けするため、全社一丸となって対応してまいります」と語ってくれました。

 同様に高濃度アルコール商品の製造に乗り出す酒造会社も相次いでいますが、不安から買い占めてしまえば元の木阿弥。この心意気に応える気持ちを持ちたいものですね。

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