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看取り覚悟の深夜1時半「この子はまだ戦っている」瀕死の子猫を夜間救急へ 「いつ亡くなっても」宣告から持ち直し、新しい家族のもとへ

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

2023年4月23日、夜の闇を引き裂くような鳴き声が響きました。ここは大阪府高槻市で活動する保護猫団体「ねころび荘」のシェルター。鳴き声の主は生後約1カ月の子猫、ヨルイチくんです。

ヨルイチくんには排尿困難があり、それだけでなく下半身に炎症がありかさぶたが癒着している状態です。かかりつけの動物病院で治療を続けていますが、原因不明で一向に良くなりません。

「この子は生きたい!」そう信じ、夜間救急病院へ

ねころび荘代表のIさんとスタッフのSさんは、今まで何匹もの猫を看取ってきました。重体の猫は死に際で引き返すこともなく、スーッと眠るように逝ってしまう。ヨルイチくんもその1匹になるのではないかと考えていました。

「このまま看取りになってしまうんだろうな…」

その気持ちは、ヨルイチくんの握りつぶされそうな叫び声でかき消されました。

「この子はまだ戦っている。生きたいんだ!」

すぐ夜間診療を行っている動物病院に電話をかけ、車の鍵を手に取りました。もう時計の針は深夜1時半を指しています。夜中の国道は大型トラックが多く、その間をすり抜けるように車を走らせました。

キャリーケースの中のヨルイチくんは時折叫び、その声にIさんとSさんは安心します。

「まだ生きている」

IさんとSさんは急いで、かつ慎重にアクセルを踏み続けました。

手を尽くしてもらっても、絶望しか残らず…

1時間ほどで夜間救急動物病院に到着。すぐにヨルイチくんを獣医師に診せます。ヨルイチくんの状態を目にした瞬間、獣医師の表情は曇りました。

「いつ亡くなってもおかしくないので、覚悟してくださいね」

獣医師は何度もこの言葉を繰り返しました。この時、ヨルイチくんはひどい貧血で、下半身の皮膚は壊死しており脱落。消化管出血もあり、便には血が混じっていました。皮膚炎でここまで酷くなるのは、ほとんど見たことがないと獣医師は言います。

ただ、安心材料も少しあり、心拍と肺の状態は正常でした。この少しの安心材料に賭け、獣医師は治療に取り組んでくれました。ヨルイチくんは酸素室に入り輸血と輸液をし、止血剤と抗生物質も点滴で投与されます。

この間はIさんもSさんも祈ることしかできません。そして気になるのはシェルターに残してきた他の猫のこと。授乳が必要な子猫もいます。IさんとSさんは祈ることしかできないなら、他の猫の世話に帰ろうと、ヨルイチくんを獣医師に託し、いったんシェルターに戻りました。

ケアが必要な猫のお世話を済ませると、再び車に飛び乗りヨルイチくんが待つ動物病院へ向かいます。

ミルクを飲んでくれた!希望のきざし

獣医師による懸命な治療は朝9時まで続き、それでもようやく「生きている」という状態。獣医師はいずれ足を切断しなくてはならないだろうと言います。診断書を書いてもらい、それを持って今度はかかりつけ医へ向かいます。

かかりつけ医はヨルイチくんと診断書を目にし、厳しい表情を見せます。遅かれ早かれその時は訪れると言いました。治療は酸素室で過ごしてもらうしかないとも。

ねころび荘には酸素室がなかったため、この時は動物病院にヨルイチくんを入院させることを決めます。少しでもヨルイチくんを楽な状態にしてあげたい。その一心です。しかし、続けて獣医師は申し訳なさそうな顔で、こう言います。

「夜は無人になるので、連れて帰ってもらえないでしょうか」

うちには酸素室がない。そうなったら確実に看取りになってしまう。慌てて近くの保護猫団体「高槻ねこのおうち」に連絡し、酸素室を持っている人を探してもらうことにします。ねこのおうちのスタッフはすぐ酸素室を手配してくれ、ようやくねころび荘のシェルターにヨルイチくんを帰らせてあげられる環境が整いました。

動物病院に迎えに行くと、獣看護師が嬉しそうに言います。

「ミルクを2ml飲んでくれました」

普段は行かない隣町の動物病院で分かったこと

ヨルイチくんはシェルターに戻っても、酸素室の中で自分からミルクを5ml飲みました。その日の夜中には、なんと10mlも。IさんとSさんは顔を見合わせます。そこから徐々に持ち直していきました。

それから2日後、かかりつけ医に診てもらうため、ヨルイチくんの診察券を鞄に入れようとすると、この日は完全予約の日。これでは診てもらえません。仕方なく、行ったことがない隣町の動物病院へ向かいます。ここは、ねこのおうちの猫たちが普段診てもらっている病院です。

IさんとSさんは、夜間救急動物病院でもらった診断書と今までのことを獣医師に話します。診断書を手に、獣医師は深刻な表情。まずは本猫を診ないことにはと、キャリーケースからヨルイチくんを出すと、何だか元気です。

「あれ?良くなってますね。それでも診ますね」

脱落した皮膚を顕微鏡で見ると、黄色ブドウ球菌がギッシリ。こんなにいるのは滅多にないのだそう。ヨルイチくんの状態が悪すぎて断定はできないものの、恐らくこの黄色ブドウ球菌が全身に回って悪さをしているのだろうという見立てです。

大きくならない体、だけど元気に

隣町の動物病院で原因らしきものが分かってから、ヨルイチくんは徐々に元気を取り戻し始めます。処方された薬もお利口さんに飲んだんですよ。ご飯もミルクから離乳食となり、バクバク食べられるようになりました。元気になると、今度はいたずらもするように。

そんなヨルイチくんの姿に、IさんとSさんは目頭を熱くします。

しかし、懸念点がまったくないわけではありません。生後3カ月になっても、体重はわずか520gほどしかなかったのです。体中が炎症を起こしているため、免疫を維持するためカロリーを消費している状態でした。周りの子猫たちはどんどん大きくなっていく中で、ヨルイチくんだけが「子猫」のまま。

これでは元からある排尿困難の手術と去勢手術ができません。獣医師からは体重が2㎏になってからにしましょうと言われています。何度も手術延期をし、ついに隣町の動物病院で去勢手術をする日を迎えました。2023年11月1日のことです。

獣医師が何人も集まってくれカンファレンスが開かれます。一人でなく複数の獣医師の視点でヨルイチくんを診てくれ、手術をしてくれました。午前中に動物病院へ預け、手術が終わり引き取りに行けたのは19時半。獣医師は言います。

「見ない症例なので、予後が分かりません。再手術が必要かもしれません」

その後、1週間ほど毎日動物病院で診てもらう日々を送りましたが、ヨルイチくんは驚くほど元気です。傷の治りは早く、尿道まで塞がってしまうのではと心配されるほどでした。

おしっこの「シャー!」と出る音が安心の音

懸念された尿道閉塞は起きず、ヨルイチくんは元気いっぱいにおしっこをしています。時々、トイレに間に合わずベッドや床の上でしてしまいましたが、「シャー!」という勢いのある音にIさんとSさんは安心を覚えました。

もう大丈夫だろうと、2024年1月にヨルイチくんは譲渡会デビュー。そこで新しい家族と巡り会い、今ではお家の猫としてヨルイチくんは元気に過ごしています。

IさんとSさんはヨルイチくんの闘病生活を振り返り、こう言います。

「獣医師を疑うのではなく、様々な視点で診てもらうことの大切さが身に染みました」

選択肢を増やすこと、それが命を助けることもある。それを知ったIさんとSさんは今日も、猫たちの幸せのために走り続けます。

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【ねころび荘】
HP:https://nekorobi-sou.com/
Instagram:https://www.instagram.com/nekorobi_cat/
X:https://x.com/nekorobi_cat

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