「卒業生からのリクエスト。黒板に鬼滅の刃。武運長久を祈ります」
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う全国的な休校措置で、例年とは少し雰囲気の違う卒業式シーズンを迎えた3月、卒業生に向けて描かれた驚異的なクオリティの「黒板アート」がSNSなどで話題になっている。題材は人気漫画「鬼滅の刃」。主要キャラの竈門炭治郎(かまどたんじろう)、我妻善逸(あがつまぜんいつ)、嘴平伊之助(はしびらいのすけ)の3人が剣を構える姿を描いた絵に、「チョークでここまでできるのか」と感嘆の声が上がっている。
描いたのは、ある高校の美術教員はまーさん(@hamacream)。黒板にチョークで自在に絵を描く黒板アートの第一人者としても知られており、その超絶技巧ぶりはこれまでにもSNSなどでたびたび話題に。はまーさん自身、高校で教えるかたわら、イベントに出演したり、新聞や雑誌に取り上げられたりするなど、多方面で活躍している。
はまーさんに黒板アートの魅力などについて話を聞いた。
「アート」というより授業の「デザイン」
――黒板アートを始めたきっかけを教えてください。
「小学校に入学した頃から黒板が大好きだったこともありますが、教員になってからは『魅力ある授業づくり』の一環として、『ワンランク上の板書』の精神で取り組み始めました。少しでも子どもたちの『美術への関心、興味の入り口』になればと思い、教壇に立ち始めた2010年から継続しています」
「SNSが盛んになった数年前から“黒板アート”と呼ばれるようになりましたが、自分の中では『アート』というよりも授業の『デザイン』だと考えています」
―黒板アートの面白さはどんなところでしょう。
「魅力は主に3つあると思っています。
『おおきさ』…机上では表現できないスケール感
『はかなさ』…触れると消えてしまう緊張感
『あたたかさ』…手描きならではのアナログ感、です」
「失礼がないように」原作とアニメを徹底研究
―今回の作品の制作期間はどのくらいですか?
「2月下旬の3連休と式前日を合わせた計4日間です。賛否両論あると思いますが、本来“そこまでしなくてもいいこと”をしているので、基本的には勤務時間外に行うようにしています。文字だけ当日朝に清書しました。描いた時間だけを合計すると20時間程度だと思います」
―工夫したところがあれば教えてください。
「1月末から描くことを決めていたので、作者の方や作品に携わる方々、作品自体に失礼がないよう、一から読み、アニメも視聴し、ひと月余り探求したところです。普段はあまり漫画を読まないので、たいへん勉強になりました。あと、3年生が7クラスだったので7色で描きました」
最後にはまーさんからのお願い
卒業生たちの素敵な思い出になれば…と思う一方、今回の黒板アートが大きな反響を呼んだことで、はまーさんには少し気がかりなことがあるそうだ。
「これは個人的な願いでもあるのですが、他の先生に同じようなものを無理に求めないようにしてほしいです。特に今は新型コロナウイルスの影響で、どの現場も大変です。もしも“黒板アート”と呼んで頂けるのならば、絵だけがアートなのではなく、日頃の連絡や授業の板書、それら全てが真心こもった黒板アートであると私は思います」