「異状なく上番しました」「立哨します」…軍隊みたいな言葉が飛び交うザ・ガードマンの世界<警備業界編>

おもしろ業界用語

平藤 清刀 平藤 清刀

かつてテレビドラマにもなった警備業界で使われる用語には、軍隊用語の名残が多く見られる。警備業界の勤務経験をもつ筆者が解説する。

「上番します」「下番します」は軍隊用語そのもの

日本で初めて民間人による施設警備が行われたのは、戦後まもなくの頃。GHQが拠点としたビルの警備をするために、約4000人の元日本兵を雇ったという。その名残なのか、業界用語には軍隊用語の片鱗が随所にみられる。

「上番(じょうばん)」「下番(かばん)」は、その典型だろう。「上番」とは「これから勤務につきます」という意味で、「下番」は「勤務を終わります」という意味。かつて軍隊の駐屯地で「衛兵勤務」や「当直(週番)勤務」につくことを「上番」といい、勤務を終えることを「下番」といっていた。

会社から離れてビルや施設などの警備業務を行う警備員は、勤務者が交代したときに「異状なく上番しました」と会社へ報告する。これを「上番報告」といい、交代した勤務者が勤務を開始したことを意味する。

元が軍隊用語といえば、「立哨(りっしょう)」もそのひとつだ。ビルの入り口に警備員が立っているのをよく見かけるが、立った姿勢で監視業務を行うから「立哨」という。これとは別に、受付の窓口で出入管理を行うときは、椅子に座って勤務しているから「座哨(ざしょう)」という。

見回りを意味するふたつの言葉

警備員の仕事には施設警備、機械警備、警備輸送、雑踏警備、身辺警備などの業務があって、筆者が携わっていたのは、建物や施設などを対象にした施設警備である。ドラマや映画で、夜中に懐中電灯を片手にビル内を巡回しているシーンが登場するが、あれは「巡回(じゅんかい)」といって、施設警備で行う業務のひとつである。

巡回は俗にいう「見回り」のことで、自分が常駐する警備先の中を定期または不定期に見て回って、火の始末が規則通りに行われているか、外部から侵入された形跡はないかなどを確認する。施設警備で最も重要な仕事だが、ほかに「巡察(じゅんさつ)」という業務もある。

巡察は、警備員が所属する警備会社の当直が、警備員の勤務状況を確認するために契約している警備先を訪れること。たいていは夜間に抜き打ちでやってくるから、現場の警備員は気が休まらない。

「守衛さん」「いいえ、警備員です」

警備員をやったことがある人なら、必ず一度は経験するのが「守衛さん」と呼び掛けられること。

だって守衛さんでしょ? と思った人は多いかもしれない。でも、よくある誤解なのだ。警備員と守衛は似て非なるもの、法的には別の職業だ。

どこが、どう違うのか?

「警備員」は警備会社の社員、すなわち民間企業に勤めるサラリーマンである。施設警備であれば、警備会社が契約している施設に常駐して、防犯・防災および出入管理のための業務を行う。そして警備員の賃金は、警備会社から支払われる。

そして警備員には、警備業法で定められた研修を受ける義務がある。

警備会社に入社したら、まずは初任教育として基本教育と業務別教育をあわせて20時間、現場の業務についた後も年に2回、現任教育として同じく10時間の研修を受けなければならない。

一方の「守衛」は、業務内容だけを見れば警備員とほぼ変わらないが、最も大きな違いは警備先に直接雇われていることだ。しかも守衛には警備業法が適用されないので、初任研修や現任研修などの法定研修を受ける義務はない。

そういうわけで警備員にはプロとしてのプライドがあるから、「守衛さん」と呼びかけられると気分はよろしくない。

「24」「36」「非番」「公休」

警備員の勤務時間は、警備先の要望によってさまざまなパターンがある。施設警備だと24時間勤務になっている場合が多く、略して「24(ニーヨン)」と呼んだ。朝9時に上番したら、下番するのが翌朝の9時である。ただし、休憩時間と夜間の仮眠時間があるから、実働時間は16時間ていど。勤務が明けたら、「非番(ひばん)」で休める。「公休(こうきゅう)」は丸1日の休日で、ゆっくり朝寝坊ができる。

ところが、警備業界は慢性的に人手が足りない。24時間の勤務が明けて(「ニーヨン明け」という)非番で帰れると思いきや、日勤(昼間だけの勤務)の人員が不足しているため、勤務シフトによっては引き続き夕方まで勤務することがある。そうなると勤務時間は、トータル36時間に及ぶこともある。この36時間勤務のことを「36(サブロク)」と呼んだ。

古参社員の中には「俺が入社した頃はなぁ、48(ヨンパチ)とか72(ナナニ)勤務もあったんだぞ」という“武勇伝”をもつ人もいた。

現在ではこのような“超”長時間勤務は減ったと聞いているが、30年くらい前までは当たり前に行われていたのだ。

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