全国一斉休校は「愚策」だと今も思いますか?…元文部官僚・寺脇研氏にあらためて見解を聞いた

黒川 裕生 黒川 裕生

2月27日に安倍晋三首相が要請し、翌28日に文部科学省が通知を出した全国の小中高校と特別支援学校の一斉休校措置。元文部官僚の寺脇研氏は当時、「全国一律に学校を閉めるなど世紀の愚策」と厳しく批判しており、当サイトでもインタビュー記事を掲載した。だがその後も新型コロナウイルスの感染は拡大を続けており、外出自体を避けるべきだとされている今、学校を再開するのは極めて難しい状況だと言わざるを得ない。寺脇氏は一斉休校について、その後どう考えているのか。あらためてインタビューを申し込んだ。

最初に取材した3月4日時点の寺脇氏の見解は「感染者が急増している地域や児童生徒が多い都市部はともかく、島嶼部など地方の小さな学校まで一律に休校にするのはおかしい」というものだった。子供を取り巻く貧困や虐待などの問題を踏まえ、休校によって安全な居場所を失う子供たちのことも心配していた。

ちなみに厚労省の発表資料によると、3月4日時点の国内の感染者数は269人。ウイルスの感染拡大を不安視する声があった一方、唐突な休校に戸惑いや怒りを表明する保護者、教育関係者も少なくなかった。

「今も『愚策』だと思っている」

――寺脇さんがインタビューで「一斉休校は歴史に残る愚策」と断じてからずいぶん状況が変わった。あの発言について今はどう考える。

「ネットでは批判の声もあったが、私は今でも『愚策』だと思っている」

「休校そのものに反対しているわけではなく、『全国一斉に』というのが無茶苦茶だということ。公立学校を管理・運営しているのは各自治体の教育委員会であり、休校はそれぞれの地域の状況に応じて決めるべきだった」

「『3月2日から春休みまでの全国一斉休校』にもし意味があったとすれば、『あの要請によって国民の危機感が高まった』と“後付け”で言えることくらい。要請に際して、政府は『子供たちの健康と安全を第一に考えて』と理由を説明していたが、そんなはずはない。その証拠に、3月の3連休直前、萩生田光一文科相が新学期からの学校再開を示唆するようなことを言っていたではないか。休校を決めた時期より感染者が明らかに増えている状況で再開しようなんて、理屈が通らない」

「『対策をしている』というポーズを示すために、経済に直接影響がなく、また文句も出にくい『学校』が使われたのではないかと邪推してしまう」

本来は自治体ごとに判断するべき

――では、あの段階ではどういう選択肢があったと思うか。

「さっきも申し上げた通り、感染者が多い自治体は休校、それ以外は状況に応じて判断するのでよかったのでは。休校は子供の教育を受ける権利と義務教育について規定した憲法第26条に違反しているという見方もできる。明治時代の学制から150年、太平洋戦争末期でさえ、国民学校初等科(今の小学校)は授業停止にならなかった。一斉休校はそれくらい重い判断だ」

――とはいえ今は、外出自体を避けるべきだと言われている。新学期からの学校再開に抗議して、高校生らが署名活動する動きもあった。

「一斉休校もおかしいが、状況が悪化している中で再開するというのも筋が通らない。子供が大人の駒にされているようにも見える。当事者である子供たちから『教育を受ける権利よりも感染防止を優先してほしい』という声が出てくるのは当然だろう」

行き場を失った子供たちのケアが急務

――教育問題に取り組む立場から、休校が長引く中で懸念していることは。

「年単位の長期戦になるかもしれない。極論だが、学習の遅れに関しては、生きていれば後から取り返しがつく。考えなければならないのは、取り返しのつかないこと、つまり子供たちの体と心の健康、そして命を守ることだ」

「家庭環境によっては、栄養失調やストレスで体調を崩したり、虐待で心が傷ついたりする危険性がある。休校によって、そういう子供たちの居場所、行き場が失われていないか。外部の大人の目が届かなくなっていないか。ウイルスの感染防止だけでなく、厳しい家庭環境にいる子供たちのケアを忘れてはいけない」

   ◇   ◇   ◇

この電話インタビューの数時間後、4月16日夜に緊急事態宣言の対象が全国に拡大。新学期から授業を再開していた自治体でも再び休校が広がる見通しとなった。文科省は「現時点で一斉休校の要請は考えていない。各都道府県で判断してほしい」としている。

なお安倍首相は翌17日の記者会見で一斉休校について問われ、「判断として正しかったと思う。あの後、多くの国々が一斉休校を行っていることからも明らかではないか」との見解を示した。

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